来た!

 なんてこった。自分を含め、すでに多くの人を救っているだろうお兄さんに向かって、僕はあんなことを言ってしまったのか……。


『まぁまぁ、お姫様の誕生日会の手伝いがあるしさ。そんな立派なことをしようなんて思わなくていいよ』


 それを聞いて僕は、そんな普通のことでユウの貢献ポイントは貯められるのかと疑問に思った。

 するとユウはあっけらかんとして、心配いらない、貯まるまで繰り返し転移して貢献していけばいいと言った。そして続けて、僕たちの世界では時が止まっている、だから浦島太郎のようにはならないから安心してとウィンクをした。


 うん。友達を置いてきてしまったことが気がかりだったから、それは良かったよ? でもでもっ、繰り返し転移は聞いてないんですけど……!


『実はさ、うちは次の生まれる場所を決めることが出来るんだ。もちろん小説の世界じゃないから記憶は無くなっちゃうけどね。つまりだっ。これは、貢献ポイントを稼ぎながら次の転生先を探す旅でもあるのさ!』


 わっはっはと、踏ん反り返って声高らかに笑うユウ。その笑い声が大きくて、霊感とか関係なくお兄さんに聞こえてしまうのではと僕は冷や冷やした。

 もうなんなの、この幽霊。


 そんなこんなでお兄さんの案内のもと道を進んでいくと、カンカンカンと何かを叩く高い音が僕たちの耳へ聞こえてきたのだった。


「さあ着いたよ。ここが獣人族の野良が生活しているリュラルという村だ」

『「わぁ……!」』


 そこは、まるでファンタジーの世界に迷い込んだような場所だった。

 地面には大きさの不揃いな石畳が敷かれ、木の板やレンガで外壁を飾る建物には三角屋根の付いた小窓がある。所々に咲いた植物の花や飛んでいる蝶は七色に光っていてとても幻想的で、ドット柄のキノコなんかも生えていた。


 すごい。遠くに見えるあれってお城だよね?

 厄介事に巻き込まれたと思っていたけど、こんな楽しいところへ来られるなんてユウに感謝しなきゃいけないな。


「なんだおめぇ? 奇妙な格好なりして」

「わ!」


 僕に声をかけた大男は、ドスンと二輪の荷車を置いて、ふーっと息を吐きながら汗を拭う。お酒のにおいがするこの大男にも、やっぱり耳と尻尾が付いていた。


「ああドゥースお疲れ様、僕も後で手伝うよ。それでこの子だけど、日本という国から来た大輝だ。その国の決まりでね、人助けの旅をしているそうなんだよ」

「人助け?」


 ガハハハ! とドゥースと呼ばれた大男は盛大に笑う。ユウも真似して笑う。

 もう、ばかにして。全部ユウのせいなんだからね!


「すまんすまん! 坊や、立派じゃねぇか! じゃあおじさんが持ってきたこの岩を、そこまで運んでくれないか?」


 山盛りに積まれた岩を見て、運べるわけがないと僕が絶句していると、大男はまた大きな口を開けて笑った。


「ごめんね。悪い人ではないんだけど」

「……別に謝ることでもないのでいいです。それにしても、生誕祭の準備はしていないんですか?」

「う、うん。実はこれが僕たちに出来る準備なんだ」

「え。どういう意味ですか?」


 お兄さんの話によると、この岩は宝石の原石らしい。あの遠くに見えるお城で暮らすお姫様へ贈るために、洞窟で採取して宝石部分を削り取って、最後に研磨して艶出しをしているそうだ。

 そうか。さっき聞こえた何かを叩く高い音は、原石を切り削っている時に鳴っていたものだったんだね。

 それで僕には、艶出しの手伝いをしてもらいたいみたい。なんだか自由研究みたいで楽しそう!


「わかりました。ピカピカにします! けど、ずいぶん量があるんですね」

「あ、ああ、まぁ……」


 歯切れの悪いお兄さんを不思議に思っていると、大男が見かねて口を開いた。


「最近の姫様は傲慢だからな。前はよく村にも来てくれたし、優しかったんだけどなぁ」


 肩を落とす大人二人を前に、僕がなんて声をかけたらいいのかを迷っていると、ユウが顎を撫でながら近づいてくる。


『ヒロ。何やら事件のにおいがします』

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