立場
呆気に取られて目が点になるお兄さんの隣りで、ユウがぷっと吹き出す。助けられたのは
確かに根拠はないけどさ、そんな気がしたんだよ。
『まぁヒロが決めた通りにしようか。何かありそうだったらいつでも虚無空間に戻れるし、アランは心の声と言動に差がないから、うちも信じていい人だと思うよ。ちなみにアランに悪霊っぽいのって憑いていたりする?』
ううんと心の中で返事をすると、ユウはそうかと首を捻った。
いやいや、そんな怖いものが憑いていたら困るのは僕の方だ。持ち帰るわけにもいかないし、この世界でも憑りつかれないように用心をしなきゃね。
「大輝?」
「ああすみません。急に変なこと言ったり黙ったり……でも僕はそう思いました。きっと力になれるはずなので、良かったら僕をアランさんのところへ連れて行ってもらえませんか?」
ユウはまた、ぷっと吹き出した。
わかってるってば。助ける宣言した僕が、助けてほしいとお願いをしているようなものだってことくらい。でも誰のせいでこんな話をしなきゃならないんだと思っているの。
それにここは僕たちにとって未知の場所。いわゆる異世界ってやつだろう?
普段だったら知らない人に付いていくなんて絶対にいけないことだけど、今は話が別……というか特別過ぎるし、ユウもいる。最強の味方がいる。僕は一人じゃない。
だから第一村人ならぬ現地人であるアランが親切なら、僕は付いて行っても安心だと考えたんだ。
そう思って僕がユウに向けて頬を膨らませていると、ハンカチを受け取ったお兄さんが慌てた。
「そ、そうだな! 僕はそのつもりだったし、今ちょうどフロレッタ姫の生誕祭の準備をしていて人手がほしいと思っていたところだったんだ。大輝がいいのなら、少し頼めるかな?」
「……ぜひ!」
僕はお兄さんが住む獣人族の村へ招待してもらえることになった。
村へ向かっている途中、僕たちはお互について質問し合った。趣味とか、友達のこととか。ユウは心配していたけど、割と正直に話をしても問題がなかった。だって国が違えば文化が違うのは当然なのだからね。
「ところで大輝は、ここまで何の用事で来たんだい?」
「へ? ええっと僕は」
『貢献ポイントを稼ぐために来た!』
「こう……じゃなくて人助けをしたくて来ました、本当に。そうだな……じ、実は僕の住む国では13歳になると、世のため人のために尽くすようにと旅へ出る決まりがあるんです」
ひぇぇ、嘘ついちゃった。それは僕が好きなアニメの設定だってば。
「そうか、すごいな。立派だと思うけど、国境をまたぐほどの距離を子どもだけでなんてなかなか考えさせられる。つまり、ここまで一人で来たということだね? だが見たところ何も持ってきていないようだけど」
「え! あ、ああまぁ僕は一瞬でここまで来たり、家に帰ったり出来る魔法がありますので……」
「本当かい!? すごいなぁ」
わぁぁ本当のことだけど、僕が魔法使いかのように言ってしまったぁぁ! って、何ユウ笑っているの!
とはいえ異国の子どもの僕が一人でいるのは不自然で、お兄さんの立場からしてみれば、この嘘が真実に思えたみたいだった。
胸が痛い。嘘なんてつくものじゃないな。
僕はその後、瞳を輝かせるお兄さんに、魔法はそれしか使えないことを伝えた。実際に僕の能力は幽霊が見えるだけだから、お兄さんを感動させられるような能力はないんだよね。
「そうだったのか。つい、万能薬を作ってもらいたいなんて思ってしまったよ」
「万能薬?」
ああと言って、お兄さんは肩から掛けていた鞄の中身を見せてくれた。
鞄を開けると、スーッとするような爽やかな匂いが鼻をくすぐった。
「これは薬草。僕は野良のみんなを元の健康な体にさせたいと思っているんだ」
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