僕は幽霊が見えてもなんの役にも立たないと思っていた

そんなことある？

「じゃあこの機材返しに行ってくるわ！」

「うんっ、大ちゃん頼んだ！」

　効率良く友達と二手（ふたて）に分かれて片付け。二手といっても他の友達もクラスメイトの女子も片付けているけどね。

　二日目はいよいよ文化祭本番。僕たちだけじゃなくて保護者も来場オッケーで、地域の人も訪（おとず）れてくる。

　学校からの手紙に母さんは参加するを選んで返していたけど、なんだかなー。帰ったら明日は来なくていいって拒否（きょひ）するか。

「子どもだね」

　耳元で声がして心臓が口から飛び出した。

　振り向くと少し離れて立っていたのは女の子。あの幽霊の子だった。

　もうやめてよ脅（おど）かすとか。機材を落としちゃうところだったでしょ。アメじゃないんだよこれは。取り返しがつかないの。

「何、喋（しゃべ）れるタイプなの君（きみ）？　……——って、しまった！」

　ひぇぇ、目を合わせちゃった。しかも話しかけちゃった。意思疎通（いしそつう）が出来るって知られたら僕、この子に憑（と）りつかれちゃうよっ。

　ビビリながらもこの際だからと、僕はまじまじと女の子を観察する。

　制服は僕の学校みたいにスクールシャツではなくて、白い線が二本入った青い襟（えり）に赤いスカーフが付いたセーラー服を着ている。髪型は高い位置で二つに結（むす）んでいる、いわゆるツインテールってやつだった。

　手足はスラリと長いし背はそこそこ高いけど、成長期をこれから迎（むか）える僕はいずれ抜かせる範囲（はんい）だと思う。

　とまぁ、なんだかんだ言っても可愛い外見をしていた。

　今日配（くば）ったアメみたいな、その女の子の真ん丸の瞳に視線を戻（もど）すと、僕ははっと我（われ）に返った。

　いやいやでも、ワンチャン幽霊じゃなくて人かもしれないし？

　だってさっきぶつかりそうだったこの子を人と見間違えて避（よ）けて転んだくらい、僕は見た目で幽霊と生きている人との区別がつかない。

　僕は半透明な幽霊にも、おどろおどろしく血が付いている幽霊にも、足がなくて浮かんでいる幽霊にも遭遇（そうぐう）したことがないんだ。

　ああどうか神様お願い……この子が普通の人でありますように！

「は？　幽霊だって普通の人だよ？　化け物扱（あつか）いして肝試しとか舐（な）めてんの？」

「ぼっ、僕はそんなことしてないし！　しないし！」

「……うん。そうだね、知ってるよ」

「へ？」

　女の子は口の端（はし）っこだけを少し引き上げて、じっと僕を見据（みす）えた。

「だから君にしたんだ」

　そう不気味に微笑んで、女の子は僕に向かって手のひらをかざした。

　すると目の前に広がっていた景色がもの凄い速さで僕の後方へと流れ始める。

　それはまるで、僕のすぐ両脇を新幹線が走り抜けていくような感覚だった。

　何これ怖いっ、めちゃくちゃ怖いっ、怖すぎるっ。嫌だ、嫌だ嫌だ、嫌だ助けて神さ——

「お母ぁぁさぁぁああーーん!!」