僕は幽霊が見えてもなんの役にも立たないと思っていた

りほこ

先は長い

 散らかしてしまったアメを拾いながら、ひろちゃん何やってんのと肩を揺らして笑う友達に、僕は語幹ごかんにも語尾ごびにも草を生やして、急に虫が飛んできたからびびったんだと同じようにアメを拾いながら誤魔化ごまかした。

 ぶつかってしまった先輩も周りにいた先輩も相変わらず優しくて、あっという間に全てのアメを回収することが出来た。

 はいはい、めでたしめでたし。もうお終い。

 だって僕はまだ中学生。こんなことをいちいち気にしていたら身が持たない。

 今までだってそうだったように、これからだって、きっとまた同じようなことが起こるはずなんだろうからさ。


 僕は笑顔で去って行く先輩に感謝をして頭を下げた後、友達の目をぬすんで視線を移した。

 僕にとっては、突然ぽっかりと空間が出来たように見えるその場所。今はもう色んな学年の人が行き交っていた。

 制服を着ていたし、あの女の子はたぶん僕と同年代なんだろうな……。

 って、気にしたら負け。


「トリックオア、トリ~ト!」


 そちらへ向きそうになる意識をどこかへ飛ばすように、僕はかかえていたカボチャランタン風の入れ物の中からアメを適当に取り出して言った。だけど思わず声が裏返っちゃって、僕はまた友達に笑われる。


 でもそんなの構わない。その肩のそばで、微笑ましく目を細めているお婆さんやお爺さんが悲しい顔をしなければ。

 さっきの女の子のように、一人でむなしく物思いにふけって彷徨さまよっていなければ。

 僕の心を、き乱さなければ。


「大ちゃん落ち着け。まだ文化祭始まったばっかり! っていうかその台詞は向こうが言うやつ!」

「うん、わかってるって。今もちょっとミスっただけだから!」


 つまり僕、天宮大輝あまみやひろきは幽霊が見える体質だ。

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