第2話 降臨

 ブォン...。

 青白い光に俺の身体全体が包まれる。聴覚が異常をきたしているのか、発情期の猫が鳴いているような音が絶えず脳内に流れ込んでくる。


 三半規管が狂いを生じ平衡感覚が失われる。地下鉄に揺られている時の10倍はあるであろうその感覚により、俺は思わず膝をついた。


「うおっ」

 床に触れている指先が光を放ち始めた。細胞の一つ一つが未知の粒子に置換されていく。痛みはなく、ただこの世から消え去っていくようだ。


 やがて頭部が鉛になったように俺は顔面から床にダイブした...と同時に意識を失う。





「な...な...あひゅッ!!」

 一瞬のまどろみの後(少なくとも俺にとっては)思考出来るようになったが、呼吸が出来ない。

 仰向けになって身体を大の字に寝転がったような体勢。そして周囲は見渡す限り森、森!森!!

 ここは日本ではないのか?すくなくとも植生は自分の知識にないものだ。大気の組成が通常のものではないのか?だとすれば高山帯などの空気が薄い場所に転移してしまったのか?


 考えを巡らせる度に脳が酸素を消費する。

 予定では2021年の4月、日本の新宿に時空跳躍するはずだったのだが...。


 違和感は他にもある。左手の先端から何かが這い上がってきているのだ。ゆっくりと粘液の塊が腕全体を飲み込んでいくような、そんな感覚。


 視線を斜め左下に移すとそこには...焼いて膨張した餅を寄せ集めたような物体が、左前腕の上で呼吸をしているのか身体を上下に揺らしている。


 ソレと目が...いや、奴に目と思しき器官はないようだが、捕食者に獲物として狙いを定められただろうことを直感で把握する。


 40センチ大の生肉が背面からヒレのような物体を俺の顔元へ伸ばす。


(おっおっおーなっ南無三ッ!!!)

 叫び声をあげようにも声帯が振動を生じさせないことが恨めしい。


 ぞろぞろりと動くソレは下唇を押し下げて、体内に雪崩れ込んでくる。

 気管に葛湯を飲んだ時のような、生暖かいトロリとしたモノが浸透していく。やがてソレが全ての肺胞を侵し尽くすと俺はまた気を失った。


「はっ!!」

 目を覚ますとそこは、やはり尋常ではない空間...少なくとも己がかつて知ったる日本とは別世界が広がっていた。


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 俺はようやく意識を取り戻した...。

「息ができる!!恐ろしく爽快ッ!!」

 特段身体に不調もない。周囲に生き物の気配はないし、ひとまず危機は脱したようだ。


 うむ、少し鮮明な幻覚を体験した気がする...が、あのような生物は生まれてこのかた見た事がない。まぁ気にしないようにしよう。


 一旦安堵...だがしかし、今自分が置かれた環境が非常に不味いことを理解するのに、そう時間はかからなかった。


 まず、先程は体勢を変えられなかった為に気づかなかったが、自身を中心に円状の血溜まりが出来ているのだ。よく目を凝らしてみると、血漿や細かな肉骨片が土壌にシミをつくっている。俺が身につけている綿製のシャツにも、それらはこびり付いていた。


 次に所持品の喪失を理解する。周りに置いていた薬品、そして装備品...小銃FGC-9やケイバーナイフといった武器類や食糧品は見当たらない。


 差し迫った脅威がない以上、第一に衣食住の確保、第二に現在位置の確認を行わなければならないだろう。


 俺は近くに水源を見つけ、拠点の設営を開始した。小川で見つけた、両生類...?角が生えたカエルのような生物。ここは周囲から孤立した場所、例えばギアナ高地の如く独自の生態系が広がる土地なのかもしれない。


 手頃な石どうしを打ちつけて石器を作る。次にそれで枝葉を切り出し、倒木に隙間なく立てかけていく。道具作りからシェルター作成まで2時間ほど。ついでにいくつか装具を自作。


 あとは日が暮れる前に火を起こさねば...。

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生き延びろッ山田ァ!! ガチ異世界攻略タイムアタック⁉ ペイトリオットゥ モリオカ @morimorimorioka

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