第4話 追いかけられる

 度重なる霊体験のおかげか、どうやらHも霊能力に目覚めたらしい。

Bと夜道を歩いていたら同じモノが視えたそうだ。(その時に視たのは電柱の下に蹲るジャージ姿の男性だったと聞いた)

そもそも憑依されたり金縛りにあったりしている時点で、Hにもそういう素質があったのだろう。

何にせよ、私の身近にまた一人霊感持ちが増えたようだ。



 Bと二人、Hの家に本を借りに行った時の事。

まだ三人とも実家暮らしで同じ市内に住んでいた為、私とBは自転車だった。

無事に本を借りて帰る時に、不意にHがちらりと道路に視線を向けると、意味深な笑みを浮かべながら言った。


「子供に気を付けてね」


とうに日も暮れて辺りは薄闇に包まれていた時間だ。

確かに暗い道で自転車を走らせるなら、歩行者に気を付けるのは当たり前のことである。

ただ、何故子供限定なのだろうと首を傾げながらBを見れば、Bが嫌そうに顔を顰めている。

それを見て私はHにどういう意味か聞いたが、Hはそれには応えず、ただ子供に気を付けろと繰り返すだけだった。

Bも何も言わずに黙っている。

どうやらこれ以上追求しても無駄のようだと分かり、私も何も言わずにHの家を後にした。


 すっかり暗くなった住宅街の中、相変わらずBは沈黙したままだった。

何となく声を掛けづらい雰囲気に、私も大人しくBの背中を見ながら自転車を走らせていた。

しかしある曲がり角を曲がった途端、Bが突然スピードを上げた。

急にどうしたのかと戸惑いながら、置いていかれないように私も必死に追いかけるが、Bのスピードはどんどん速くなる。

何があったのかと声をかけると、Bは泣きながら叫んだ。


「いや〜!来ないでぇ!!」


え、と思い後ろを振り向くが、そこは暗い道がただ続いているだけだ。

何がなんだか分からなかったが、Bの取り乱した尋常ではない姿に私も段々と恐怖心が湧いてくる。

後ろには誰も居ないはずなのに、もしかして何かが近付いてきているのか。


何が?

子供が?


それを想像して、一気に恐怖が膨れ上がる。

気付けば私も泣きそうになりながら、必死に自転車を漕いでいた。


 ようやく大通りに出て、その明るさにBと二人、ホッとする。

全力疾走したおかげで、足はすっかりガクガクだ。

一体何があったのかBに問えば、やはり子供が居たと言う。

黄色い帽子を被り、ランドセルを背負った男の子が、ニヤニヤ笑いながら追いかけてきたと。

そしてその顔は大きく膨れ上がり、男の子が走るのに合わせてユラユラと揺れていたらしい。

余程怖かったのか未だに青い顔をしたままのBに、視えなくて良かったと、私は改めて再認識した。


先程の自分たちは、傍から見れば私が嫌がるBを追いかけているように見えたんだろうな、という現実は敢えて考えないようにしながら。





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