第55話 魔の森で、キメラ雑談


 壁外の森の名称は、『魔の森』。


 多くの魔物が生息しており、首都イスパニアよりも大きいことで有名らしい。その広大な森の中心には、ドラゴンがいるとの噂もある。


 「首都イスパニアは、魔の森からの資源で大きくなったという話を耳にしたけど...見渡す限り、木だね。セイラさんはどう思う?」


 索敵能力が少し落ちるとはいえ、人間に顔を見られないよう念の為フードを被っている。窮屈な思いをさせて申し訳ない気持ちになるが、こればかりは、仕方ないと諦める。


 「エタンセルに接する森の方が、危険が多い。アタシは、魔の森という呼び方は大袈裟だと思う。」


 「あははははっ。そうだね、キメラが生息している最果ての森は、想像を絶するヤバさだからね。ドラゴンの顔をしたキメラもいたし...」


 エタンセルに接する森を、俺たちは『最果ての森』と呼んでいる。魔物は、キメラにとって、ただのエサにしかならない。それこそ、ドラゴンでさえも。

 エタンセルで生み出されたキメラの総数は、発見された資料によると、失敗作を合わせて3000体以上。どんだけ、生み出してるんだよ。あんな危険な存在を生み出す人間もどうかと思うけどさ...


 「アタシたちが何度も相手していたキメラが、失敗作だと知った時は、本当に驚いた。とても強いのに、それ以上のキメラがいるなんて...想像しただけで、恐怖で鳥肌が立つ。」


 黒騎士に所属している者は、全員、好戦的であり、脳筋の集団と呼ばれることもしばしば。キメラに突っ込む姿は、とても頼もしいんだけどね。


 「失敗作ではないキメラか...。そういえば、キメラとは別の生物を生み出していたな。研究者たちは、それを人工魔人と命名したんだっけ。人間に、魔物の核である魔石を埋め込んだらしいけど、適応したのは、10人のみで、その人工魔人の中でも強い者を、魔王と称し、世に解き放とうとした。でも、失敗作であるキメラに食われて...」


 「ナインさん、足元お留守。」


 セイラさんに指摘されて、慌てて周囲を警戒する。最果ての森と比べて危険性が低いと断定するは、少し早い。


 「ご、ごめん。セイラさん。」


 「うん...気をつけてくれれば、それでいい。ナインさんの話しは、アタシたち黒騎士にとって大事だけど、詳細は知らない。」


 言われてみればそうかも。研究内容を知るのは、各部隊の隊長と副隊長くらいで、他の者には大まかにしか伝えていない。


 「キメラの生態については、まだ確信の段階ではないから伝えていないんだと思うよ。セイラさんは、キメラがどうやって生み出されたか聞いてる?」


 少し、間を置き、セイラさんが答える。


 「確か...研究者の一人が持つスキルによって生み出された...」


 「そう。そのスキルの名は、融合。とんでもないスキルだよね。」


 こくこくと頷くセイラさん。あれ?これ言っていいんだっけ?


 「融合...初めて聞いた。」


 「あぁ、思い出した。混乱するから言っちゃダメって...まぁ、いいか。セイラさん、俺から聞いたこと内緒だよ?」


 「分かった。誰にも言わない。言わないけど、どうして混乱するか教えて欲しい…」


 ここまで言ってしまった以上、セイラさんが納得する返事をしなくてはいけない。俺は、記憶を探りながら話す。


 「魔物と魔物との融合は、失敗作のキメラ。人間に魔石を埋め込んで適応した人工魔人を食べた失敗作のキメラは成功作らしいよ。ふふっ、セイラさん、混乱しているね。」


 一度立ち止まり、俺の言葉を整理しているようだ。俺も初めて、その資料を見た時は、混乱したもんだ。


 「つまり、成功作のキメラは10体存在する?」


 「まぁ、そうなるね。でも、俺たちは、6体殺しているよ。覚えてる?真っ黒の見た目をしたキメラを。」


 セイラさんの記憶に、思い当たるキメラがいたようで、こくこくと頷く。


 「研究資料に記されていた特徴とそっくりなんだよね、そのキメラ。」


 「とても強かった...セレナが力を解放しなかったら負けていたキメラ。ちゃんと覚えてる。ブラックキメラのこと。」


 真っ黒の見た目のキメラをブラックキメラと呼んでいることに、俺は初めて知った。安直すぎる気がするけど、ここはスルー。


 「そう、それ。ブラックキメラ...のことだね。うん。そのキメラは、人工魔人を食べたことで知能が異常に高かったんだ。研究者が集っていたエタンセルを滅ぼしたのは、ブラックキメラだと考えられているし、厄介な存在なのは間違いないよ。」


 そろそろ、キメラの話しを終わりにしようと、声を出そうとしたら、セイラさんに口を手で塞がれた。


 「戦闘の音が聞こえる...いた。」


 俺の口から手を離し、前方に指をさすセイラさん。指がさされた方に目を向けるが、裸眼では確認出来ない。マジックバッグからスコープを取り出し、確認する。


 「冒険者?それと、オーク?」

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