第54話 クエスト
「こんにちはー。すみません、Dランクの依頼を受けたいんですけど、いいですか?」
俺は、綺麗な女性が受付している列ではなく、無愛想で強面男の受付の方にいく。理由は、その受付の男の列に誰もいないから。
「おぉん?Dランクの依頼だとぉ?お前、ランクは?」
無愛想の強面男の名前は、グレイ・アックス。首にかけている名札に書いてあった。圧をかけてきたけど、そよ風みたいで、笑える。
「くふふっ。あっ、笑ってすみません。俺は、Dランクですよ。ほら、ギルドカード。」
冒険者ギルドカードを提示して証明する。セイラさんも、同じように提示する。
偽装の冒険者ギルドカードではないか、チェックするグレイさん。スキンヘッドで無愛想の強面だと、そりゃ、誰も受付に来ないわな。
「本物みてぇだな...」
「それ、本物ですから。みたい、じゃなくて本物ですから。目、腐ってんですか?」
「あぁん?おメェ、いい度胸してんな、おい。まぁ、いい...最近、偽装した冒険者ギルドカードが出回ってんだよ。それでチェックしたんだが、知らねぇか?」
偽装冒険者ギルドカード?そんな面倒臭いことする奴がいるの?アホだろ、そいつ。
「アホだろ、そいつ。あっ...口がすべった。」
「ふっ、はははははっ。確かにアホだな。知らんみたいだな、お前たちは?」
グレイさんの探る様な目の動き、口角の動き、呼吸。
「そんなの聞いた覚えはないし、俺たちが周りに気を使う冒険者だと思いますか?そんな労力と時間があるなら、セイラさんとお食事していた方がいいです。」
ふむ...っと言って、少し間を置き、話し出すグレイさん。
「見えねぇな。俺が放った殺気を軽くいなしていたし。死地は越えてるみてぇだ。合格だ。Dランクの依頼、受けてもいいぞ。」
「何十回も死にかけて、逃げ回りましたよ。あぁ、思い出すだけで、笑える。あの時、ああしていれば、もっと早く攻撃出来なのに...とか。成長出来るって素晴らしいですね。」
「気色悪ぃなお前。俺も大概だと自負しているが、お前も変わりもんだな。ふっははははは!ちなみに、何のDランクの依頼を受けるつもりだ?」
「失礼な受付ですね...肩慣らしに壁外調査の前に魔物を狩ってこようと思います。ブラッディオーガ(血塗れた戦鬼)の討伐クエスト...」
首を鳴らし、指を鳴らすグレイ・アックスさん。冗談が通じない男は、嫌われるぞ?
「間違えました。オークの討伐クエストを受けます。ちゃんとDランクのクエストなので、受理して下さい。」
「はぁぁ。テメェ、オーク以外のブツを持ってきても査定しないからな?そのことを肝に銘じておけよ。」
圧をかけることしか、芸がないんだろうか?
「分かってますよ。それより、別のクエストのことを聞きたいです。王立高等学園の依頼について、詳しく教えて欲しいです。」
「あぁん?おメェら、貴族様に対して、低姿勢で接することが出来んのか?」
そう指摘されると、返事に困る。ただ、ミィちゃんのためなら我慢出来る。必要に迫られるなら、靴だって舐めるぞ、俺は。
「仕事なら我慢しますよ。それに、王立高等学園って、別に貴族様だけが通っている訳ではないはずです。才能があれば特待生で入れる制度もあるとかなんとか…」
王立高等学園、幅広く優秀な人材を集めている。武芸に特化した者、魔力量が多い者、頭脳明晰な者...平民の出でも入学可能と、ルナさんからの返信メールに情報が記されていた。
「まァ、常識があるなら、大丈夫か...おメェの言う通り、貴族だけじゃなく、優秀な才能を持つ平民も通っている。学園内の待遇は、良くねぇらしいがな。」
ミケにシワを寄せて、目を細めるグレイさん。平民の待遇に対して、学園に思うところがあるんだろな。
「妬みですかね?気にしなくてもいいと思うんですけど...人それぞれですから、俺には関係ないです。それでもし、クエストを受けるとしたらですけど、貴族の中でも最優先に護らないといけない人物はいますか?」
「少し、待ってろっ。リストがあったはず...あったあった。」
受付カウンター備え付けられている引き出しを漁って、リストを確認するグレイさん。スキンヘッドが光に反射して、眩しい...
「今年は、第三王子、第四王女、公爵家次男、辺境伯の長女、粒ぞろいだな...おメェが言う最優先は、第三王子になる。命の価値は、平等ではない。そのことが分かっているなら、王立高等学園の依頼を許可してもいいぞ。」
「生まれた場所や環境によって、命の価値が変わるなんて、世の中残酷ですね。それでは、護衛クエストの許可をください。」
「あい、分かった。せいぜい苦しんでこい。」
依頼書にギルド印が押されて、乱雑に封筒に入れるグレイさんを見て思った。この人、思った以上にギルド内の地位が高いのか?と。裁量権があるように見えるし...
「確かに、受け取りました。どうもありがとうございます。オーク討伐のクエストに行ってきます。」
オーク討伐、王立高等学園の依頼書を受け取り、冒険者ギルドをあとにする。そう言えば、久しぶりの戦闘な気がするぞ?旅の道中は、大して魔物と遭遇していないから...
俺とセイラさんは、壁外に面する森へと歩き出す。
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