第53話 冒険者ギルドにて


 冒険者ギルドの依頼は、B級ランクまで掲示板に依頼書が貼り出される。A級ランク以上になると、専属のアドバイザーが付き、そのアドバイザーから依頼が提示される仕組みになっている。


 冒険者ランクは、S、A、B、C、D、E、F。Sが一番高いランクで、Fが一番低いランク。俺たちが所持している冒険者ギルドカードは、Dランク。身分証の代わりになれば良いという認識なので、ランクについては、さほど重視していない。


 「緊急クエストの依頼は、全ランク受けることが可能...で、今回、貼りだされている緊急クエストは、クレイモラン領の調査の同行。十中八九、公爵家の者の依頼だろう。それにしても、この依頼書は、酷い。こんなで人が集まるのか?」


 「報酬、一日金貨三枚。拘束期間、30日。働きぶりによっては、私有兵へのチャンスがある。それ以外は、何も書かれていない...ブラック臭がする。」


 セイラさんの言葉に、俺も同意だ。調査の同行だけで済むはずがない。魔物との戦いや、馬の世話。冒険者を下働きにする魂胆が見え見え。


 「えっと、小さい文字で、女性冒険者には、別途報酬あり...きもっ。貴族きもっ。文字読めない奴は、引っかかるだろ、これ。おえっ。気持ち悪い...」


 なんだろ?この依頼書は...吐き気がする。

 この世界だと、普通なのか?女性冒険者は、貴族に接待するルールでもあるのか?


 セイラさんが、俺の背中をさすって落ち着かせてくれる。強引なところもあるけど、こういう優しいところもあってキュンとする。...ヒロインじゃないんだから、キュンとするなよ、俺!


 「アタシも、この依頼が異常なのは分かる。はっきり言って、クズ。」


 今日の夜、依頼を受けた者は、冒険者ギルドの2階の部屋に集まるよう書いてある。こっそり紛れて、携帯で動画とって、皆んなに共有しようかな。


 「クレイモラン領の調査については、もういい。別の依頼で、エアリーズ公爵に繋がるもの探そうか。」


 文字が読めないから、依頼書を剥がして、受付に持っていく者がいる。簡単な文字なんだから、覚えろよ。


 「ナインさん。あれ。右上に貼っているDランクの依頼書。アルディア王立高等学園からの依頼がある。」


 セイラさんが指さす方へ目を移すと、確かに、アルディア王立高等学園の依頼書が貼ってある。


 依頼内容は、学生の壁外調査の護衛。

 壁外に面する森に入り、魔物の生態、動向を知り、魔物対策への参考とする調査を学生が行う。万が一に備えて、冒険者が同行し護衛するという内容。ちなみに、報酬は、三日間で金貨三枚。何を基準にその値なのか分からない。


 「まだ確定ではないけど、マイク・フォン・エアリーズが王立高等学園に学生であるならば、この壁外調査に参加する可能性があるな。調査日は、今日から5日後...」


 「今日から5日後なら、工作部隊が、何かしらの罠を設置することが出来る。受付は、明日まで。すぐ、メールでこの情報を共有すべき。」


 メールで情報を共有しろと催促するセイラさん。そういえば、セイラさんだけじゃないけど、携帯を扱い慣れていない人多いんだっけ。


 人目につかないところで、依頼書の内容を打ち込み、アルマさん、ミィちゃん、ルナさん、ペトラさんにメールを送信する。あと、マイクさんが学生であるか調べられる者がいたらよろしくと、追加でメールをしておいた。


 「メールで情報共有しておいたよ。セイラさん、俺たちは、Dランクで壁外調査する森のクエストを受けようか。」


 「森の名前を受付に聞きたい。」


 「あっ。そうだね。なんで、森としか書いていないんだろう?」


 「恐らく、首都イスパニア外から来た冒険者が混乱しないため。」


 そうか。そうなのか?いや、セイラさんが断言しているんだから、そうなのであろう。

 どう?アタシ凄い?が顔に書いてあるような表情で、俺の目を覗くのやめて。反応に困る。


 「う、うん。さすが、セイラさん。名推理だよ...」


 フードを被っているから、顔が離れると表情が分からない。分からないけど、雰囲気で察する。絶対、ドヤ顔しているに違いない。


 S級冒険者パーティの顔が拝めなかったのは、残念だったが、まだ時間はあるし、気長にやっていこう。それよりも、ミィちゃんの怨敵の情報が重要。言葉巧みに受付している人に聞いてみるかな。

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