第41話 的になるために育った白狐


 俺が血のカーペットを歩いている中、各所で戦闘が激化していく。


 ※ソフィア視点


 アマンダの護衛として、影で身を潜めて待機していた。アマンダの指示で、影移動し、敵兵をいつでも殺せるようにしていたのだが、アマンダが仕留めてしまった。


 「...暇なの。」


 私とジュシカは、クレイモラン伯爵領で生まれた。クレイモラン伯爵の指揮で里が燃やされ、白狐の獣人の女以外、殺された。そのあとに関しては、エタンセルにいる者たちと同じだと思う。


 母親は強姦され、誰が父親なのか分からない。私とジュシカは、母親は別だが、父親は多分同じだと推測している。だって、能力が同じだから。


 忌々しく思っていた影のスキル。今でこそ、能力の1つとして、便利だから割り切って使用している。別にこのスキルを使わなくても、もうひとつのスキルで対応できる。


 白狐族で稀に能力を持って生まれる子がいて、その能力は、幻惑スキル。目先を惑わすことが出来る力。私とジュシカは、そのスキルを持っている。


 ただ、私たちは、影と幻惑のスキルの存在を一人の仲間によって隠された。その人は、白狐族で、私たちよりも10年早く生まれ、幻惑スキルを持っていた。


 その人の名は、ユフィ。ユフィは、里の生き残りのひとり。私たちの面倒をみて、育ててくれた姉のような存在。物心つく頃には、母親は魔法の的にされて死んでいた。とある貴族が、逃げ惑う獣人を魔法で殺すことを教育の一環にしていたのだ。嬲り殺される。笑いながら殺される。


 ユフィは、その貴族に買われ、奴隷となり、まだ幼い私たちを育てる仕事を与えられていた。それは何故なのか?獣人を育てて、将来、魔法の的、練習台にさせるため。それだけのために育てる。


 私たちは、地下室の牢屋で大半時間を過ごした。稀にではあるが、魔法の的としての心構えとして、現場を見せられる。逃げ惑う同胞。魔法の力に抗えず、最後は丸焼きにされて死ぬ。


 ユフィ自身、私たちが大きくなったら、魔法の的にされる。いずれ必ずその時が来る。私とジュシカは、それが嫌だった。そんな私たちを見て、ユフィは、幻惑スキルの使い方を教えてくれた。ユフィが魔法の的にされている時間に、幻惑スキルを使用して、この地獄から逃がすために。


 「どうして、ユフィは逃げないの?」


 寂しそうに、そして悲しい顔をして、言う。


 「私の足を見れば分かるでしょ?幻惑スキルが使えても、片脚が動かなければ、遠くまで逃げられないからよ。どうせ逃げられないなら、あなた達だけでも逃がすために、命を使った方がいい。きっと、あなたたちを救ってくれる者が現れる。だから、その時まで、逃げ続けなさい。影になって生き残りなさい。」


 どうして、この世界は、こんなにも残酷なの?


 ユフィも私もジュシカも悪いことしていないのに...


 そして、遂に、ユフィが魔法の的になる日が来た。

 子爵の次女が、はじめて実戦練習をする。だから、足が悪く逃げ惑うことが出来ないユフィが選ばれた。


 「幻惑スキルは、相手の目先を惑わすの。上達すれば、意識さえも惑わすことが出来る。私が的にされる瞬間にスキルを発動させるから、その隙にこの屋敷から逃げなさい。」


 ユフィは、私とジュシカの幸せの願った。でも、ごめんなさい。私たちは、ユフィを殺した貴族、人間が許せない。この世界が許せない。


 ユフィが稼いでくれた時間で、私たちは、屋敷を抜け出し、街を出てひたすら逃げた。でも、何も食べず逃げ続けるにも限界があった。道端に倒れた私たちは、意識が落ちた。

 意識が戻りると、そこには、ハーフエルフと獣人がいた。その集団のリーダーが私たちに、声をかける。


 「私はアリエス。私たちは、あなた方と同じ存在。私たちは、最果ての地にいる、救世主に救いを求め、この世界に復讐する者。もし、あなた方にその意思があるなら、ついてきなさい。」


 私とジュシカは導かれるかのように、アリエスの手を掴む。

 そのまま死んで楽になりたかったと思えるほど、苦しい旅をして、最果ての地に到着した。


 そして、出会った。巡り会った。救世主...いや、誰よりも復讐心に囚われている男に。

 彼は言った。共犯者であり、救世主ではないと。力をつけるための環境を私たちに用意し、愛し、そして、復讐するための機会を作ると宣言した王。

 王は、神だった。有言実行。私たちが望むものを全て用意してくれた。


 「だから、私とジュシカは、この時を心から待っていたなの。」


 恐怖で身体を震わせている人間を前で、長い長い過去の話しをした。より絶望を与えるために。


 「イリアが殺した白狐族の女性は、私たちの姉なの。」


 「お前たち人間は、私たちの的になったの。」


 私とジュシカがそれぞれの口から言う。


 「簡単な話しなの。」


 「逃げ惑え、人間。そして丸焼きになるの。」


 「私たち王であり、神は言った。私たちは、世界を変える者なの。」


 「私たちの理想とする世界には、王以外の人間は、必要ないの。」


 「あははははっ。お前たち、人間は、神の教えに従って死ぬ運命なの。」


 「せいぜい、絶望して死ぬの。ふふっ。あははははっ。」


 イリアの前に、父親である子爵の身体に何百本の針を刺す。身体の至るところに針を刺し込むたび、悲鳴をあげる。

 逃げ惑い、刺した針を抜く子爵。抜いた瞬間、その倍の針が身体に差し込まれる。

 目を刺した時が、1番大きな声で鳴いた。次は、耳。目に刺した針は抜かないのに、耳に刺した針は抜こうとする。


 「王は言った。声を、音をならせ。だから、もっと鳴けなの。」


 「その声が、ひとつの音になるの。」


 どう?我らの王。私たちは、あなた様が期待する音を奏でることが出来た?まだ、期待に添えていないなら、もっと声をあげさせましょう。


 「次は、イリアなの。」


 「ユフィを焼き殺し、私たちの王を裏切ったの。」


 「私たちではなく、貴女が的に生まれた存在なの。あはっ!いい、その表情なの。」


 「もっと絶望するの。その分、ユフィも報われるの。ふふっ。」


 火で熱した鉄を何度も何度も何度も何度も、顔に押し当てる。ぐちゅくちゅになった顔。簡単には殺さない。命が果てるまで長い時間をかけてやる。

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