第33話 メロス
今までの馬車の2倍のスピードで走っていくメロス。黒い毛並み、黒いたてがみをなびかせ走る姿は、とても凛々しく、かっこいい。
「そろそろ、朝日が上がる時間だ。クレイモラン伯爵領に、近づいたはず。ソフィアさん、ジュシカさん、ありがとう。外の様子の確認後、影から出して欲しい。」
「分かったの。」
「私たち少し寝るなの。」
「本当にありがとう、そしてお疲れ様。」
2人の頭撫でてから、影から出た馬車。なんと、立派な城壁が目視出来る所まで、メロスは走ってくれたらしい。ソフィアさんとジュシカさんに代わり、御者をしてみる予定だったが、メロスの状態が気になり話しかける。
「大丈夫か、メロス?少し休むか?」
「グルルルゥ、くぅゥ。」
「お、なんか分からないが、疲れたぽいな!よし、待ってろ。水と、食事の用意をしてやる!」
メロスと会話しているみたいで嬉しくなり、水が入った桶とリンゴを5つ用意した。もの凄い勢いで、リンゴかじり、水を飲んでいく。その間に、日本から持ってきた馬用のブラシで汚れを落として行く。
「今まで動物を飼ったことなかったのに、まさかいきなり馬を飼うなんて、人生何が起きるか分からないもんだ。」
馬の世話をしていると、エマさんたちが起きてきた。ソフィアさんとジュシカさんに叩き起されたらしい。
「あ、おはよう。皆んな。よく眠れたかい?」
「お、おはようございます。ナインくん。ごめんなさい。大変なことになっていたのに...起きなくて。本当にごめんなさい。」
エマさんにならって、全員、頭を下げる。
「いやいや、そもそも、俺が寝かせたんだ。気に病む必要はないよ。それより、見てくれ。この馬、メロスが頑張ってクレイモラン伯爵領の近くまで運んでくれたんだ!」
「うん?この馬...まぁいいか。せやな。もう眼と鼻の先やなー。ほんまに、すごいわ。」
エセ関西弁を使うアマンダさん。一瞬、メロスを見て、目を見開いたが、メロスから目を離し城壁を見る。
「本当、お見事です。ナインさん。約定を破った人間たちに報復しに行きますか?」
「ロジェさん、それは皆んなの気分をリフレッシュってわけには行かないが、少し休もうと思う。近くに、森があるでしょ?そこにゲートを設置して、お風呂に入って汚れを落としてから、再出発したい。」
分かりました、といってアマンダさんとロジェさんは、ゲートの護衛にエマとステラちゃんが同行する。
「ニコルさん、どう?周囲に敵兵が潜んでいるかい?」
頭を横にふり、いないと告げる。
「失敗したなー。ナインくんに、薬盛られるとは思ってなかったー。悲しいーなー。」
泣き真似をするニコルさん。そんな彼女の近くによって、肩に手を乗せる。
「功を焦って、コンディション不良だったニコルさんたちが悪い。いい勉強になったね。あははははっ。」
口を膨らませて、プンプンしているを見て、つい笑ってしまった。
「もぉー。原因は、ナインくんにもあるんだから反省してよねー。もちろん、私たちも猛反省するぅー。」
「うん。俺も反省するよ。ほら、森の方へ行こう?」
再び、馬車に乗って、森の方へ移動する。ステラちゃんにお願いして、馬車が通った痕跡を消してもらう。
慣れた手つきで、ゲートを設置するアマンダさんとロジェさん。さすが、技術部隊。恐らく、情報を共有して、どんどん最適化しているのであろう。
「ゲート設置後、アリエスに現状の報告をし、白騎士たちにゲートを守護してもらう。一旦、全員、エタンセルに帰国するよ。」
了解。と、声を揃えて、短い返事をするエマさんたち。現状、軍に追われている立場なため、緊張感を持って行動する。
「しっかし、まさか、ここまで大胆に攻めて来るとは...しかも、俺たちがクレイモラン伯爵領に着く前に、軍が差し向けられた。一体どうやったんだ?通信機のような魔道具でもあるのか?」
「わかんなーい。私たちが知らない魔道具かもねー。でもー、イレーナとサリーが試作品で、似たような物を作っていたー。スマホだっけー?あれ、すごいよねー。」
ニコルさんが、俺に近づいて、吐き捨てるように呟いた言葉を拾ってくれた。確か、報告書があったな...
「画期的な発明らしいね。報告書には、本来ゲートは、人を転送させることを主としているが、ゲートの仕組みを解析し、携帯に組み込むことが出来れば、最小限のゲートの出力で電波を流し通話を可能にする...だったかな?」
「そう、それ!早く、私も、ナインくんみたいにスマホ使いたーい。」
「それに付随して、小型のゲート、最新のゲートの開発も並行して行っているとも書かれていたな。エタンセルの技術部隊は、天才集団かなにかか?やっている事が凄すぎだろ。」
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