第32話 テイム(無意識)


 ※ステラ視点


 「あー、極楽、極楽。やっぱり我が家のお風呂が最後だねぇー。そう思うやろー、ロジェ?」


 「そうだね、アマンダ。そのおじさんくさいセリフやめた方がいいよ。」


 久々のお風呂に入って、だらけきっているアマンダに注意するロジェ。

 技術部隊は、変人だらけだと私は思っている。爆弾マニアに頭のネジがぶっ飛んだ発想をする副隊長。

 アマンダは、裁縫が得意で、ナイン様の世界に似た服をよく作っている。あと、化粧品に目がない。

 ロジェは、アマンダの手伝い兼モデル。片手間にエタンセルの住民の髪を切っている。

 とにかく、この2人は美意識が高い。私は、ナイン様が用意した物で十分だと思っているのだが、2人は違う。ナイン様にお願いして、ファッション雑誌を購入してもらい、そこに載っている服や化粧品を全て注文する。お金が足りないと分かると、金策に走り、時に仲間からお金を徴収したり、技術部隊の隊長の目を盗んで金を拝借し延べ棒にする。


 「はぁぁ。ナイン様は、お優しい。こんな2人を見放さないなんて...」


 「おいおい、ちんちくりん。聞こえてんぞー。王様は、こんなウチだから好きって言ってくれるのさ。飾らない姿で飾らない心でいろって耳元で囁いてくれるのさ。あー、あの時の王様のことを思い出す度、濡れるね。」


 アマンダは、決して悪いことはしていない。金をちょろまかすのはどうかと思うけど。


 「私も、ロジェのありのままが見たいって言われた。ちょっと、ごめん...」


 ロジェは、まぁ、私が言うのもなんだが、変態だ。隠れ変態。ナイン様の世界で言うなれば、むっつりスケベ。正しくそれだ!むっつりスケベのロジェだ!何思い出してナニしてんのよ!


 「私も...言ってもらったもん...。」


 「なんてー?」


 「教えないわっ!バカアマンダ!」


 ナイン様、必ずお役立って見せますから...また、長い長い夜を...ムフフふふっ。


 「気持ち悪い、笑い方してんなー、ちんちくりん?」


 「コロス!戦争じゃァ!!服狂いの露出変態痴女!!」


 ※主人公視点


 このあと、風呂場が壊れ、アリエスさんから雷が落ちたとステラちゃんから聞いた。


 旅は、まぁまぁ順調といえる...言えない。

 ソフィアさん、ジュシカさん以外を寝かせたあと、ハプニングが起きた。なんと、俺たちが着くよりも早くクレイモラン伯爵領から、子爵直々に大将となりナイン討伐という旗を掲げた軍が迫ってきた。


 「クレアめ、何かやったのか?追い詰めすぎたか?」


 まだ、目を覚まさない彼女たちを起こすのは気が引ける。ちくしょう!確かに俺を殺せば、契約書の効力が無くなる。こっちは、たった8名(5名熟睡中)


 「ソフィアさん、ジュシカさん、影の中にここにあるもの丸ごと入れれる?」


 「夜だかい出来るなの。」


 「出来るの。」


 「さすが!それならお願い!」


影の中は、真っ暗であり、馬車に取り付けていたランタンに灯りをつけ、馬車を走りださせる。昼間、エマさんたちと一緒に寝ていたから馬は、元気なはず!


 「さぁ、軍隊からの逃避行だ!進めぇえ!」


 俺の号令ととも、駆けていく馬。最悪、肉体強化剤を注入する。これも、キメラの副産物の一つ。副作用は、馬が痙攣して死ぬ。ギリギリまで走ってくれ!


 「お前の名前は、メロスだ!ナイン王が命じる。死ぬ気でクレイモラン伯爵領まで突き進め!」


 メロスが雄叫びを上げ、力強く地面を蹴り、馬車のスピードを上げ突き進む。


 「王様、馬に名前つけたなの。面白いなの。」


 「うん。すごいの。」


 俺は全く意識していなかった。そこまで気が回らなかった。

 この馬、ただの馬ではなかった。ダークホースという、名馬で、この世界で俺が初めて、テイムした瞬間だった。

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