第30話 お前死んだな
「だが、断る!」
ぁあ、人生で1度は言ってみたかったセリフ。最高な気分である。許してもらえると思った状況で、このセリフ。鬼畜すぎる。くふふふふふふっ。
「くっ。分かりました。グレッグ、両腕を差し出しなさい。これは、パーティメンバーからではなく、伯爵家のクレアとしての命令です。」
目に涙を溜めているグレッグ。男の涙目なんて見たくねぇよ。
「その決断よし。クレアさんの心意気に免じて、腕の切断はやめましょう。伯爵家、子爵家より、金貨1000枚頂きましょう。」
膨大な金だが、腕の切断に比べて、刑が軽くなったと勘違いさせる。
「はっ!ご配慮頂きまして誠にありがとうございます。」
クレアさんが膝を着いて顔面を地面に擦りつけているよ。俺は、後ろを振り返り、エマさんたちの様子を伺う。
めっちゃくちゃ笑ってやがる。恐らく、ハーフエルフで耳がいいステラちゃんが聞き取り、それを聞いた誰かが俺のモノマネとクレアさん達のモノマネをしているんだ。絶対にそうだ。ニコラさんとアマンダさんが腹を抱えて爆笑しているから間違いない。
「ゴホンっ。えー、最後にですが、罪のない女性を監視した件については、質問に応えて頂けるだけでいいです。」
「はっ!何なりとお聞きください。」
「ハーフエルフやと呼ばれる亜人、獣人、それも人間に近い者達のことをどう思いますか?グレッグさんから順に、最後にクレアさんでお願いします。」
「お、おれ...私は、家畜だと思っています。」
グレッグ、お前死んだな。
「拙者は、混ざり物であり半端者であるからして、仕方ないと思っているでござる。」
ウンケイ、お前死んだな。
「私は、奴隷になるべく生まれてきた存在だと思っております。」
ルージュ、お前死んだな。
「わ、わ、私、獣人の子を、その奴隷を魔法の的にしていま、した。そう言う存在だと、両親から、その、教わりました。」
イリア、お前死んだな。
「私は、存在するべくして生まれた存在だと思っております。獣人、亜人は、人間種のために生まれた存在という解釈をしております。」
クレア、お前死ん...
「クレアさん、それは何で教わりました?」
「アルディア王国の首都イスパニアにある王立高等学園で教わりました。」
クレア、お前様子見だな。
「分かりました。応えてくださりありがとうございます。それでは、クレイモラン伯爵領でお会いしましょう。必ず、盗品は、お返し致します。あっ、こちらの盗賊の死体を持っていけば、説得がしやすいのでは?」
「ありがたく頂戴致します。クレイモランで心よりお待ちしております。」
長い交渉を終え、彼女、彼らに背を向け、仲間のところへとゆっくり歩き出す。ここが最後のチャンスだぞ?ほれ、斬りかかってこい!!
「ふぁいぁー、ぼーる...」
まさかの魔法かよ!しかも、イリア、お前か!
「いい度胸していますね、君たち...」
「えっ...ど、どうして、どうして!無傷なのよ!」
発狂しだしたイリアさん。それを必死に止める男ども。頭、顔を地面に擦りつけたままのクレアさん。
「や、やめるんだ!イリア!」
「やめるでござる!」
「よせ!イリア!」
ルージュさんがイリアさんのみぞおちを殴り気絶させる。だが、もう遅い。
俺は、ステラちゃんの耳に届く程度の小声で呟く。
「契約書を用意しろ、ステラ。それをロジェに持ってこさせろ。」
「クレアさん、貴女の血は契約書に対して有効ですか?サインは有効ですか?イリアさん、いえ、子爵家に賠償させる権限をお持ちですか?サインしてくれますよね?クレアさん?」
まるで瞬間移動したかのように現れるロジェさん。ロジェさんの手には賠償金が書かれている用紙。特殊な糸で出来た用紙。この世界の最重要な書類に使われている用紙。効果については後ほど。
「は....い。私の血を有益でございます。強制で子爵家に賠償させるだけの権限は持っておりません。ですが、父であるホープから、この契約書が事実のもと清廉潔白であると認可されるのであれば、賠償させることが出来ます。もし、よろしければ、父の説得に私をお使いください。」
俺はロジェさんの耳元で指示を出す。
「ここであったことを全て、事実、そして我々が有利になるように記入した用紙を用意して。」
顔を赤らめて、頷くロジェさん。
数分後、改めて新しい用紙を用意してくれた。
「お待たせしました。クレアさん、君たちの信用は、マイナスなんですよ?あなた方に3度も命を狙われ、冤罪をかけられたのです。とりあえず、この書類にサインと血判をしてください。ここで起きたことに対する全ての事柄が記載されています。それに同意してください。」
アンモニア臭がする。よく見るとクレアさんから水溜まりが...尊厳のため、見なかったことにする。
用意した用紙全てにサインをしてもらい終え、挨拶をしてから次こそ仲間の元へ、ロジェさんと一緒に戻る。
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