第26話 警戒


 アデス村からバイクで半日ほど離れた平原にゲートを設置。今回、アデス村で大活躍のエリさんとカーラちゃんと夜を過ごす。げっそりした俺と肌をつやつやさせ、上機嫌の2人がテントから出て、ゲート前で別れ、入れ替わり、今回の旅メンバーが馬車と共に現れる。一見普通の馬車に見えるが、この馬車の車体には、夜間の通行のためにランタンがぶら下げられたり、魔物よけの護符がほどこされている。


 「おはようございます。ナイン様。本日より次の街、ホープ・フォン・クレイモラン伯爵が統治しているクレイモラン領まで我々が同行いたします。よろしくお願いします。」


 同行メンバーを代表し、エマさんが挨拶をする。


 「あー、うん。よろしくね。そんなに堅苦しくしないでいいよ。普通に接して。旅の最中は、さん、もしくは、くん付けで呼んでよ。」


 「分かったわ、ナインくん。」


 早速、口調を変え、自然に接してくるエマさん。獣人は、鼻がいい。昨日の夜の匂いが残っているためか、少し、全員顔が赤い。ハーフエルフのステラちゃんも顔が赤い。うーん、変態は、匂いに敏感なのかな?


 「そんな感じ、そんな感じ。あと、エマさん、匂い嗅ぎすぎ。もう行くよー。」


 「はーい。馬車に乗ってー。初めは、ウチとロジェが馬を引くから、皆んな、はよ乗って。王様、その匂いウチらには、刺激強いんよ。だから、身体拭いて?」


 「ああ、そうする。アマンダさん、道中よろしく。」


 「任されたっ!ロジェ、いつまでも突っ立てないで、手伝えー。」


 顔を真っ赤にしてボーッと突っ立てたロジェさんのお尻を蹴るアマンダさん。


 「あっ...す、すまない。すぐ行く!」


 しっかり匂いを落とし馬車に乗り込む。

 道中、何気ない会話をしていたのだが、魔銃を手入れしていたステラちゃんが突然構えだす。


 「ナインさん、前方におそらく人間がいます。警戒を!」


 ハーフエルフの耳は伊達ではない。索敵能力は、獣人と大差ない。ステラちゃんは、遠距離攻撃を主としており、魔銃を好んで使用する。ただの変態ではない。おませな子であるだけで、普段はツンデレさんの美少女である。俺を前にするとデレしかないが...。


 「エマさん、ニコルさんは、フードを被って。ソフィアさんとジュシカさんは、影の中へ。会話が通じる人間であれば、俺が対応する。」


 警戒を強め、馬車を進めると、5人の人間の男女と遭遇した。相手も警戒しているのか、武器に手をかけている。


 「休憩中でしたらすみません。私たちは、村を出てクレイモラン領を目指している者です。あのぅ、前に進みたいのでどいて頂けますか?」


 5人パーティなのか、リーダーの男性が武器から手を離し応対する。


 「すまない、先程、盗賊を取り逃がしてしまって、皆んな殺気立っているんだ。君たちは、何か見ていないかな?」


 「盗賊ですか?はて、見てませんよ?どのような外見ですか?」


 「皆んな、この人たちは、おそらく白だ。」


 なにが白だ。こっちは真っ黒だよ!って言いたいのを我慢する。


 「顔のいい御者と綺麗な女性。人間のようね。」


 「然り、我も白だと判断した。」


 ごちゃごちゃ言っていないで、さっさと道開けろ、クソが。時間は有限なんだぞ?てめぇらに構っていられないんだよ。


 「えっと...なにが白なのか、よく分かりませんが、もう通ってよろしいですか?」


 「あぁ、すまなかった。どうぞ、通ってくれ。」


 なぜ、許可が必要なのか分からない。絡むとめんどくさそうだ。

 アマンダさんとロジェさんに進むよう指示を出し、5人の人間から離れる。


 「はぁぁ。なんだったんだ、アイツら。ステラちゃん、スコープでさっきの人間の監視をお願い。」


 「はい。いつでも撃ち殺せるようにしておきます。」


 エマさんとニコルさんはフードを被ったまま、警戒を続ける。


 「先程話しぶりかして、盗賊は、人間じゃなさそうなの。」


 影から現れるソフィアさん。俺もソフィアさんと同意見だ。殺した方が楽だが、処理が面倒なのでなし。


 「ソフィアの言う通りね。この先の道中、私とニコルは、表に出れないわね。はぁ、最悪よ。」


 「ほんとさー、何してくれちゃってんのかなー、盗賊さん。ナインくんとの楽しい、楽しい旅行の邪魔とかないよねー。」


 エマさんとニコルさんの機嫌が悪くなる。こればかり、仕方ないとして、我々も盗賊の対応をしよう。


 「さっきの人間が、嘘をついている可能性はないの?」


 「ジュシカさんの意見も一理あるな。盗賊とグルの可能性もあるかもしれない。そしたら、最悪。」


 挟み撃ちされる。もしくは、この道を進ませる価値があり、まんまと罠に嵌ったかもしれない。色々と考えられるが、先を急ぎたい。随時警戒しつつ、馬車を走らせる。

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