第27話 油断
警戒を緩めることなく馬車を走らせたが、馬を休めないといけない。たくさんの人が通ったであろう道。地ならしはしていないが、歩道として機能している。その道から少し離れ、テントを設営していく。
「はぁー、マジないわー。マジ、ナインはん以外の人間死ねばいいのにー。」
アマンダさんが悪態をつきながらテントの中で寝転がっている。それを諌めるロジェさん。技術部隊では、これが日常茶飯事。
「そんなこと言っていたら、エマに叱られるよ?私たちは、まだマシな方だから。ね?スカート脱ぐのやめなよ。ナインさんがいるんだよ?」
「えー、いいんじゃん。別にー。これで、興奮してくれるなら、なおよし!」
「なおよしじゃないから!」
イケメンも苦労しているんだなぁ、っとしみじみ思った。そんな彼女の肩に手を置き、俺は言う。
「ロジェさんも大変なんだね。その気持ち凄く分かるよ。俺たちは同士だ。」
俺の方に振り返り、肩に乗せたてをそっと掴み微笑む。
「ナインさん...私、やはり貴方が傍にいるだけで、救われます。あぁ、同士...いい響きです。」
「ナイン×ロジェ。これはこれでアリかも...」
鼻血をたらしながらブツブツ呟くステラちゃん。そんなステラちゃんを無視すると、甘い空気なっていた俺とロジェさんの間にアマンダさんが入る。
「なにイチャイチャしてのや!ズルいわッ!ウチとチョメチョメしよ、ナインはん。な?ウチとラブラブしぃひん?」
妄想を展開中だったステラちゃんが、鬼の形相でアマンダさんに詰め寄る。
「なにしてんの?アマンダ姉?せっかくいいところだったのに...略奪愛は、私好きじゃないの。」
一瞬なにを言われたのか理解出来なかったようで、ポカンとした表情のアマンダさん。ただ、すぐ思考を働かせて理解したのか、ステラちゃんに噛み付く。
「分かってないなぁ、ステラはんは。大人の恋愛は、ドロドロやで?」
「そのエセ関西弁?やめてください。」
「えぇー?漫画という素晴らしい文学では、よく使われているんよ?知らんのー?お子ちゃまやねー、ステラはん。」
「きぃぃぃぃ。ムカつく!ムカつく!」
「ウチに、口で勝てるよう、もっと勉強せなあかんでー?あははははっ。」
俺とロジェさんは、手を繋いで2人の様子を見ていたが、そんな2人を止める者が現れる。
テントの中に入ってくる、その女性は...2人の頭にゲンコツを落とし、無言で去っていく。
「かっこいい。アレが姉御と言われる所以だね。」
「ええ、やることが男前なんですよ。私も、ああいう風になりたいです。」
「えっ?ロジェさんは、そのままでいいよ。」
「そ、そうですか?えへへっ、ナインさんがそう言うなら、このままでいます。」
言動は女性らしいが、イケメンフェイスで言われると変な気分になる。
ロジェさんから手を離し、テントの外に出る。
「もう、ナインくん。ダメよ、あの2人を止めないと!」
「お、おう。すまない。そして助かったよ。エマさん。お礼ではないけど、一緒にご飯作ろ?」
一瞬で機嫌がなおるエマさん。チョロいぜ。
エマさんと一緒にご飯の支度をしていると、フラフラと寄ってくるニコルさん。
「えー、いいなー。新婚ごっこしてるのー?えー、いいなー、混ぜてー。」
「新婚っ!うふふっ。仕方ないわね、ニコルも手伝って。」
「エマ姉、ナイン君のことになるとチョロすぎる。これは危険。ナイン君からも注意しないとダメだよ?」
急に口調が変わるニコルさん。こういう口調の時は、真剣な時だ。マジレスありがとう。
「あ、うん。でも、これ治らないと思うよ?5年以上一緒にいるんだけど、悪化している気がする。」
肩を落とすニコルさん。諦めた表情で、料理の手伝いをしてくれる。
ソフィアさんとジュシカさんは、見張りをしている。夜は、彼女たちにとって、スキルや魔法との相性がいい。
「いい匂いなの。ご飯なの。」
「お腹すいたの。」
影から現れるソフィアさんとジュシカさん。2人は、同じ環境で育ったらしい。俺は、本人が話すまで詳しく過去を聞かないことにしているため、詳細は分からない。
「シチューなの。美味しそうなの。」
「私、ナインさんにアーンするの。」
表情を変えず、一定の声質で話す2人。ルイズさんに色々仕込まれたらしいけど、元から、こんな感じ。
「ナインさん、アーンするの。」
「あ、ああ。アーン。う、美味い。エマさんとっても美味しいよ。」
照れるエマさんの肩を何度か優しく叩く、ソフィアさん。
「明日は、私が作るなの。ナインさんに、笑顔で美味しいって言われたいなの。」
「ええ、そうね。ご飯作りは、分担しましょ。」
ソフィアさんの言葉に圧を感じるが、全く気づいていないエマさん。ある意味、スルースキルの達人では?と思った。
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