第10話 偵察
アリエスさんが告げた作戦に異議を唱えることは無いけど、この先長い行軍が続くのであれば、しっかり休める時に休みたい。
「通信手段を持っているなら逃がした方が時間を稼げるか...?うーん...正体を明かすメリットがない...。」
独り言のようにブツブツ呟く俺。人間相手は、今回が初めて。キメラもそこそこの知能を持っていたが、人間となると、そこらの魔物よりも頭がいいはず。たぶん。
「アリエスさん、斥候に村の規模と戦力の把握の指示をお願い。初陣たがら、慎重に事を進めたい。」
わざわざ正面から戦う必要はない。確実に丁寧に殺してあげたい。その為なら、どんな卑怯な手を使おうが構わない。
「あの村の住民を何人か攫って拷問をかけ、情報を引き出すのも有りだな。斥候の報告を聞いた上で判断...、慎重すぎか?」
俺を見つめているエマさんに問いかける。
エマさんは、目を閉じ数秒考え、周りを見渡した後、答えてくれた。
「いえ、初陣ということもあって浮き足立っています。地に足をつけ、確実に作戦を実行した方が良いかと...。それに時間はいくらでもありますし、村も至るところにあります。様々なやり方を試した方が、今後のためになります。」
「ふぅ...、ありがとうエマさん。初めての戦。初めての人殺しをするのだ。イレギュラーもあるかもしれない...。うん?どうしたミィちゃん?」
エマさんだけでなくミィちゃんも俺を見つめている。というか笑顔...何か嬉しいことでもあったのだろうか?
「あはははっ。ナイン様が笑っているから、ミィもね、嬉しくなっちゃって。」
「えっ?笑っている...確かに、口元が緩んでいたかも。教えてくれてありがとう、ミィちゃん。」
ミィちゃんの笑顔は、癒される。本当にいい子だなぁ。そして、残酷で残忍である。俺も初陣で浮き足立っていたのかも。
斥候の調査が戻るまで、休みを挟みつつ、作戦を練ったり、村について聞いたりなど時間をつぶした。
ちなみに、あの村に名前はないらしい。アリエスさん曰く、最果ての地から最も近い村ということで冒険者が滞在しているらしい。キメラから逃げ延びたと思ったら、人間に狩られるなんて魔物も可哀想に思える。
「ナイン様、ただいま戻りました…」
斥候のリーダー、狼の獣人であるルイズさん。警戒心が人一倍強く、隠密に長けている頼れる存在だ。
「お疲れ様。報告お願いするよ。」
「はっ。村の規模の把握がしっかり出来ませんでした。畑が広がっており、農民が魔物に警戒することなく土を耕しています。また、5年前まであった柵がありません。開拓が進み、村の規模が大きくなっているようです。」
最果ての地に近い村にしては警戒心が低くないか?これは、5年前の村とは別物だと考えた方がいいな。
「規模が大きくなったのであれば、数時間では把握出来ない。それは仕方ない事だから、悔しそうにしないで。それで、戦力の方はどうだった?」
「はっ。失礼致しました。お見苦しい姿を...。戦力の方は、冒険者が数名いました。ただ...」
「うん?」
ルイズさんが険しい顔をしている。言葉にしづらいのだろうか?
「ただ、軽装備で剣を引きずって歩いていたり、農民と談笑している様子しか確認出来ませんでした。」
ルイズさんが、険しい表情になった理由が分かった。本当に意味が分からないのだろう。俺もさっぱりだ。
「まさか、平和なの?」
「...……。魔物の警戒がない。外敵に対する対策もしていない。一体どうなっているでしょう?」
「人間め...、殺したい、殺したい。ふざけるな、平和ボケしやがって...」
ルイズさんの報告に、皆それぞれ反応する。村の状況に対して疑問を持つもの。平和そうにしている人間に対して、憤りを感じている者。
「平和ねぇ...、くははははっ。それなら、地獄にしてやろう。無防備なら、簡単に攫って来れるだろう。ノーラさん、日が沈んだら決行して。ルイズさんは休みをとって。」
地面に片膝をつけ、胸に手を当てるノーラさんとルイズさん。想像していた村の様子とは違うが、何も支障はない。せいぜい、平和な日常をおくれ。
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