第7話 宣言


 「さて、これから先どうするか。それを今日決めたい。ここは最果ての地。今は、とてもではないが長居できるところでは無い。」


 あれから身体についた汚れを落とし、食事をとり、久々の満腹に皆、眠気に襲われ寝てしまった。幸い、魔物が襲ってくることはなかったので、しっかり休むことが出来た。寝てしまったことについては、アリエスさん並びエマさんたちに土下座されたのは驚いた。


 ここまで来るのに疲れたのだろうと思って、魔物に関して俺も頭から抜けており、気にせず、1度日本に帰ってしっかり休んだ後、再び異世界に戻ってきた。そういう事でお互い体調バッチリということで良いではないか、っということで場をおさめた。


 朝ごはんを食べた後、全員を集め、今後の方針を決めるため会議を始めた。


 「では、どうしろと言うのですか?私たちは、ここへ追いやられた。行く場所もなく、貴方様が居るかもしれない場所に望みをかけて来たというのに...。ぐずっ...」


 エマさんのサポートをしている獣人のひとり、ノーラさん。彼女は、黒猫族らしい。そのノーラさんから、声が上がる。


 「まぁ、落ち着いて。長居はできるところでは無いと言ったが、昨日は安全だったろ?もう少し、インフラ...えーと、生活基盤が整えば暮らせていけると思う。断定は出来ないけどね。もちろん、俺も協力する。でもさ...ここで一生を終えてもいいのかい?」


 俺は、良くないと思っている。卑屈になりすぎている。どうせ、ここで死ぬかもしれないなら...


 「ナイン様は、私たちに何を求めているのですか?」


 代表してアリエスさんが俺に問う。


 「迫害をしてきた者たちへの復讐を望んでいる。私はね、救世主様と呼べる程の男ではないんだよ。君たちとは違う世界の住人。本当に世界が違うんだよ。そこに住む私も迫害を受け、余生を山の中でひっそり暮らそうと思った...思ったんだけどね、なんか違う。私だけの感情なのかもしれないけど、どうしても許せないんだ。私は悪いことをしていない、何なら悪いことをしたのは向こうの人間だ!殺してやりたい…、私の両親を殺し、私の人生を壊した者たちへ復讐したいんだ。ギタギタにヤツらの身体を切り裂いて、その血を浴びたい。ふふははははは、なぁ、こんなことを思っている私は、果たして救世主様なのか?」


 黒い感情が一気に膨れ上がり、ぶちまけてしまう。決して同じ境遇ではないかもしれないが、皆、それぞれあるはず。その黒い感情を刺激する。俺を利用するなら、お前らを利用しても良いだろ?


 「はぁ...ただ、1人では出来ない。もう一度言う。私は、救世主様ではない。君たちと共に復讐する者だ!もう、散々コケにされ、散々暴力を振るわれ、散々辱めを受けた。なぁ...今度は俺たちの番じゃないか?」


 俺が発する言葉に息を飲むのが分かる。

 俺には、暴力を振るう力はない。でも、暴力を振るう力をもつ者を育てることは出来る。その為なら、いくらでも投資しよう。


 「ある意味、私は、君たちの心にある黒い感情を育み、力に変える救世主かもしれない。いや、違うか。共犯者だ。どうする?復讐を糧に生きていくか、ここで安全と呼べない場所で一生を過ごすか。どちらの選択でも、私は支援するつもりだ。」


 支離滅裂。


 自分で言うのもアレだが、何言っているのか、分からない。笑える。何、突然、血迷ったのか。分からない。でも、1日一緒に過ごしていたら、腹が立ってきたんだよね。この世界も変わらない。金や権力、そして暴力による差別や迫害。


 「ふふふふふふふふふふ、クフッ。私は貴方様のような方を待っていた!待ちに待っていた!あぁ、この手でヤツらの全てを壊し、殺せるなら何だってしましょう!!」


 アリエスさんが笑いだし、今まで1番の笑顔で俺の問いに答える。この人も、俺と同じ人種?種族?壊れたヤツなんだな。

 アリエスさんの宣言から、解放されたかのように子供関係なく、全員が声を上げる。


 「死を!私たちを苦しめた、憎いアイツらに、生きているのが辛くなるくらいに苦痛を与えて殺したい!」


 エマさんによる宣言。それに呼応して、獣人が足を地面に何度も踏みつけ、吠える。

 ハーフエルフは祈るように、制裁を、死を、ヤツらに死を!っと何度も唱える。

 最後に再び、代表してアリエスさんが俺に宣言する。


 「私たちの救世主であり共犯者様。何卒、私たちをお導きください。この身、この心、死ぬ時まで貴方様のものでございます....」


 俺は、アリエスさんの目の前に立ち、肩に触れる。


 「よろしく、アリエスさん。そしてここにいる同胞よ!」


 共犯者、同胞。仲間であり、家族である。

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