第6話 清潔


 「ちょー、恥ずかしかった...仕方ないとはいえ、女性物の服と下着を買うのは辛い。隣町のショッピングセンターなのが幸いだな。もう二度と行かねぇ。ホームセンターにも行ったし、金策のための物も大量に仕入れたし...ぐふっ。ぐふふふふ、ふふぁははははは!やべぇ、頭おかしくなって、変な笑い方をしてしまった。」


 長い時間、買い出しに行っていただけあって、もう日本は夜だ。あっちの世界だとまだ昼か?どのくらい時間の流れが違うか確認しないとな...


 「いや、待てよ...!俺、こっちで寝てから異世界に行った方が効率良くね?うーん、どうすっかなー。あっちに行ってから考えるか。」


 そんなこんなで、異世界に再びやって参りました!

大量の荷物の運び出しが辛かったが、皆の働きで一段落ついた。

 買った物の仕分けは後にするとして、まずは風呂だな。敷居がないのが残念だが、大量に買い込んだホースを繋いで斜度を生かして水を小屋の近くに流す。これで水汲みをしなくても大丈夫だと思う。


 「それでお風呂なんだけど、まだ色々と物が揃ってないから簡易プールで順番ずつ汚れを落として欲しい。水は無限にあるっぽいし...ミィちゃん、こっち来てー。」


 アリエスさんやエマさんたち大人?の身体や頭を洗う訳にはいかないから、ミィちゃんには申し訳ないが、子供でシャンプーなどの使い方を実践する。


 「ナイン様に洗ってもらえるなら、この身を好きにしても良かったのですが...仕方ありませんね。」


 ボソッとアリエスさんの声が聞こえたが聞いていないことにする。

 はしゃぐミィちゃんの頭を洗い、身体は石鹸がついたタオルで汚れを落とし、水をかけ、乾いたタオルで水気をとる。最後に、子供用の下着と服をプレゼントして着てもらい、終わり。


 「ってな感じで、順番によろしくお願いします。乙女の身体を見る趣味は、私にはないのでご安心を。私は小屋で休んでいるので、終わったら声をかけてください。」


 アリエスさんをはじめ、みんなに感謝される。これから先、長く働いてもらうので先行投資であるから、感謝されるとむず痒い。


 異世界生活は、まだ不安定ではあるが、初めて会った時よりかはみんなの顔が明るい気がする。

 

 「おっと、いかんいかん。小屋の中を整理しないと。灯りを取り付けて、地面をならしてー...これ以上イジれないな。うん、横になって待っていよ。」


 さて、衣食住の衣食までは何とかなる。最大の問題は、住である。こればっかりは、みんなと要相談だよな。ここに住むなら絶対に必要だし...


 コンコン


 「はーい、どなたですかー?」


 小屋の扉をノックしたのはアリエスさん。先に汚れを落としたようで、ボサボサだった髪も綺麗になっており見違えたね。


 「失礼します。ナイン様、数々のご厚意、誠にありがとうございます。もし、もし、よ、よろしければ、ご奉仕をさせて頂きたく参りました。ふつつか者ですが、よろしくお願いします。」


 「えっ?」


 「えっ、あの、この身を如何様にもお好きにお使いください...です。はい...。」


 一瞬、何を言われたのか理解出来なかったが、最後の言葉で理解出来た。出会ってすぐ、そんなことを言っていたなぁ、っと思いつつ、アリエスさんを傷つけないよう言葉を選びながらお断りする。


 「えーっと...もっと自分を大事にした方がいいよ。出会ったばかりだし...まぁ、うん。ご飯食べて、ゆっくり休んだ方が、いいよ?」


 全くもって、ダメダメなセリフで断る俺。泣きたい。


 「そ、そうですか...。私では不足でしたでしょうか?」


 「えっ?いやー、そう言うわけではないよ。ごめんね、口下手で。今、身体を休めることに集中して欲しいかな。」


 「かしこまりました。あの...、子供たちからの要望で、砂糖とバターを染み込ませたパンが食べたいと...。」


 先程とは、うってかわって言うのが辛そうな感じ。遠慮しなくても、パンや砂糖は安いし、いくらでも食べてもらってもいいんだけど...逆の立場だったら...うん、俺も申し訳なさそうにお願いするかもしれない。


 「まだ、沢山あるから。気にせず、腐る前に食べきって欲しい。カット野菜やベーコンも使い切ってくれると嬉しいから、塩コショウかけたりして野菜炒めやコンソメスープを作って食べて。」


 「あ、ありがとうございます!」


 色々与えすぎるのはいけないとは思いつつ、持ち込んだカバンの中に入れておいた缶コーヒーを開け、一息つく。

 

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