第3話 最果ての地


 アリエスさんの案内のもと、水辺に移動中。

 道中、集落の状態を見たが、あまりにも酷い。移動民みたく、テントが張ってあるくらいで生活水準が低すぎる。まるで原始人のような...いや言い過ぎだな。歩いている中、落ち着きを取り戻したアリエスさんに軽く話しを聞いた。

 曰く、ここにいる者たちは迫害や孤児の集まり。アリエスさんが亡き両親の言葉を信じて、身寄りのない者たちを集め、率いて最果てまで逃げてきたそうだ。


 「アリエスさんのご両親が言っていた救世主が現れるとされる最果てに来たのは分かったけど、私が救世主かどうかは別の話しですよね?」


 「はい、正直申しますと、両親が私に伝えた話しは嘘かもしれません。ですが、希望がないより、あったほうが生きていけるものです。実際にナイン様にお会いできましたから。」


 つまり、居るかも、現れるから分からない中、最果ての地まで来たと。やべぇ女だぜ。にこやかに言う事じゃないのは間違いない。


 「着きました。ここが水辺でございます。」


 「う、うん。確かに水辺だけど、あの生き物なんですか?」


 水辺で休んでいると思われる生き物に指を指し、アリエスさんに尋ねる。見間違いでなければ、鹿のような角にガタイのいい馬の胴体。そしてラクダのような顔。


 「魔物です。最果ての地では、強力な力を持つ魔物が多く生息していると言われています。私たちには、もうここしかありません。ここしか逃げる場所も住む場所もありません。後ろに着いて来ている者たちは、見ての通り女性だけ。男性の方は、皆、最果ての地に来るまでに私たちを守るため死にました。」


 「そ、そうですか...。心中お察しします。」


 確かに、男性の姿が見えない。深刻な顔をするアリエスさんに対して、どのような言葉をかければいいか分からない。

 見た感じ、100人くらいか?それも若い人や子供だけ。不謹慎だけど、よくここまで辿り着いたと感心してしまった。


 「そのお言葉を頂けただけで、私たちのために命を落としていった者たちが救われます。ありがとうございます。」


 やべぇ女かもしれないけど、生きるためにここまで出来ることじゃない。見捨てる勇気、覚悟もあっただろう。強い女性だと思う。

 お礼の言葉と同時にアリエスさんが頭を下げるの見て、俺の後ろにいる女性たちも頭を下げる。


 「頭を上げて下さい。まだ何もしていません。すみません、話しを戻していいですか?あの魔物は危険ですか?」


 頭を上げ、顔を横に振るアリエスさん。


 「確かに、あれは魔物ですが、襲ってくることはありません。私たちのことを意識化に置いていないと思われます。その辺の草と同じですね…」


 oh......なんてこったい。その辺の草と同じ存在に思われているのかよ!

 ここは、ポジティブに考えてもいいかも。まだ襲われないだけマシだと。いつ襲って来るか分からないところが不安だけど。


 「えっと、はい。私も、その辺に生えている草と同じ存在だと認識しているみたいですね。ほら、襲ってこないみたいですし。」


 敵になり得る者であれば、あの魔物は動きだすかもしれない。だが、反応しないところを見ると俺も草同然の存在ってことになる。遠回しに救世主ではないですよーアピール。


 「ふふっ。そのようですね。身近に感じる救世主様なのかもしれませんね。」


 えぇええ、ポジティブすぎる返しありがとうございます!そんな救世主いません!と言いたいところだけど、さすがにここで逃げ出すのは心が痛む。


 「ここにある水は、飲めますか?」


 「はい。2、3日前にこの場所に来てから、この水辺の水を飲んでいますが身体に、問題ありません。それに、水の精霊も居ますので、安心出来るかと思います。」


 また、謎ワード。水の精霊?なにそれ?どこにいるの?


 「そ、そう。後で、この水辺に用があるから安全が確認出来て良かったです。一旦、小屋に戻りましょう。色々と準備が必要ですので。」


 首を傾げるアリエスさん。

 どうした?俺、変なこと言ったか?


 「準備とは?何処に行かれてしまうのですか?」


 明らかにシュンとしているアリエスさん。

 いかん、いかん。安心出来る言葉を伝えなくては。


 「えーっと、あの、お腹空いていると思うので、食材を取りに行こうかと思いまして。それとタオルや石鹸などの用意をしようかと...」

 

 目を見開き、口元に手を当て驚いているアリエスさんと、後ろの女性たち。

 えっ?また何か変な事を言ってしまったか?えっ?なんで、ここで泣き出すんだ?えぇー?

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