第4話 食


 泣き出す彼女たちが落ち着くのを待ってから、小屋に戻る。必ずまた来ると伝えているし、問題はないと思う。


 それにしても、腕や足に痣があったりと彼女たちの境遇は、あまりよろしくなさそうだったな。しかもあの環境だと、心も体も暖まれない。


 「とりあえず、衣食住の食から手をつけていこうかな。暖かいスープに、砂糖たっぷり付けたパンくらいなら用意出来るだろう。」


 ボロ家を出て、車に乗りスーパーに向かう。食料を大量に買い込み、ついでにガスコンロや食器など必要だと思うもの全て揃える。大荷物になってしまったけど仕方ない。あと、荷運びするための台車も買わなくちゃ。

 それから数時間掛けて買い物をしてから、荷台に食料などを乗せ、異世界に通じる扉を開ける。

 アリエスさんたちからは、この扉がどう見えるだろうか?っと、ふと思ったが、空腹で精神状態が良くない彼女たちを待たせる訳にはいけないと思い、急いで小屋の中へ入る。


 「あれ?まだ、皆、ここに居たの?」


 アリエスさんが目をぱちくりしている。もちろん、俺もだけど。どういうことだ?俺が小屋の中に入って、見送られてから結構、時間が経っていると思うのだけど。


 「恐れながら、ナイン様。ナイン様がお姿が無くなってから、ほんの少しだけしか時間が経っておりません。」


 えっ?数時間経っていると思うんだけど...時の流れが違うのか?ダメだ、分からないことだらけ。


 「そ、そうなんですね。と、とりあえず、荷物を運び込むから皆さんお手伝い下さい。」


 アリエスさんたちがこくりと頷き、台車を小屋の外へ出してくれる。その間に俺は何往復かして荷物を小屋の中に運び入れる。


 「はぁ、はぁ。こ、これで全部です。ご飯の用意をするので、まだ手伝える方は力を貸して下さい。」


 子供以外は、まだ大丈夫のようで、率先して手伝ってくれる。ガスコンロの使い方を教えて、調理方を見よう見まねでやってもらう。

 フライパンを熱して、バターをひき、砂糖を適量にぶち込んでパンを焼く。別のガスコンロでは鍋を乗せ、カット野菜に細かく切ったベーコンを入れ、コンソメスープの元と水を入れる。これも真似て作ってもらう。


 「ナイン様、ナイン様。もう食べていいですか?」


 片耳がない獣人の子供が駆け寄って来て、お腹に手を当て尋ねてきた。香ばしい匂いがしたからだろう、空腹の限界なんだと思う。


 「いいよ。しっかり食べな。あ、名前は?」


 「わーい!ありがとう、ナイン様!はむっ...お、美味しい...。」


 「こら、ナイン様が名前を聞いているでしょ?」


 同じく獣人の女性が、子供の頭を撫でながら優しく注意する。


 「ご、ごめんなさい...。私、ミィ。ミィです。」


 「申し遅れました。私の名は、ミィを含め、獣人のまとめ役をさせていただいております、エマと申します。この度は、食料をこんなにご用意頂きありがとうございます。」


 丁寧な所作で挨拶するエマさん。キツネのような耳にしっぽ。この人も痩せこけている。手抜きのご飯で申し訳ない気持ちになりつつ、エマさんに返事をする。


 「いえ、大したことはしておりません。こちらこそ、水汲みを率先して下さり、ありがとうございます。エマさんもしっかり食べて下さいね。」


 泣き出しそうな顔で返事をした後、エマさんと大人とは言えないが子供より少し大きい獣人たちも食事をはじめる。

 全員に食事が行き届き、達成感を感じつつ、俺もコンソメスープを食べる。


 「おぉ、美味しい!俺が作るより上手いんじゃ...」


 「そんなことはありません!ナイン様の教え方が良かったからです!あと、私たちに敬語は不要です。もっとくだけた口調で結構ですよ?」


 「アリエスさんがそう言うなら...」


 久しぶりのしっかりしたご飯にありつけたと、嬉しそうに食べる彼女たちを見て、少し、少しだけ、頑張ってみるかと心の中で思った。

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