第2話 懇願


 服を掴まれては逃げれない、帰れない。それに、必死な顔をしている女性の手を振り払うほど、俺は意地が汚い訳では無い。

 手を上げ、降参するかポーズをし、耳長女性の方へ体を向ける。


 「分かりました。話を聞きますので、服から手を離して下さい。」


 身の危険を感じると言うほどでもないので、話しを聞いてから逃げようと企む。

 話を聞いてくれると思ったのか、服から手を離し、再び膝をつく耳長女性。


 「大変失礼致しました。救世主様。」


 「その、救世主様と呼ぶのやめてください。俺...私の名前はナイン。ナインと呼んで下さい。」


 デタラメに付けた偽名を伝える。


 「かしこまりました。ナイン様。私の名は、アリエスと申します。」


 耳長女性は、アリエスというのか。

 この人、どう見てもエルフだよな?種族を尋ねるのは失礼に当たるかもしれない。慎重に言葉を選んで話さいないといけないかも。


 「えーっと、アリエスさん。それで、話とは?」


 「はい、ナイン様。私たちをお救い下さい。何卒、何卒お願い申し上げます。」


 地面に頭を付け、懇願するアリエスさん。

 その姿を見て焦る俺。何に焦るって?決まってんだろ!お救い出来ねーよ。


 「頭を上げて下さい、アリエスさん。突然の申し出すぎて理解出来ません。詳しく...」


 「良いお返事頂くまで、頭をあげるつもりはありません!どうか、どうか、私たちをお救い下さい!お願いします!」


 えぇー、何この人。俺の話聞いてくれよ!話が進まねーよ!


 「何からお救いすればいいのですか?」


 「環境、いえ、この絶望の世からお救い下さい!」


 おいおい、壮大なお願いすぎだろ!

 絶望の世とかなんだよ!意味わかんねぇ。俺にそんな力ある訳ないじゃん。断ってもいいよね?


 「もうし...」


 「なんでも致します!私の身、心、全て捧げます!どうか、お願いします!私たちをお救い下さい!」


 断る言葉を遮られたぞ、今。

 身も知らない女性から懇願。傍から見たら俺、めちゃくちゃ悪いヤツやん。あと、小屋の扉の隙間から覗くのやめようね。視線を感じるんだよ!


 「い...」


 「お願いします!」


 嫌すぎる。改めて、頭を下げている耳長女性ことアリエスさんを観察する。服は土で汚れ、髪を汚れている。かなり細身で困窮しているのか、先程みた顔は、頬が痩けていた。それでも、綺麗だと思うけど。


 「はぁ、分かりました。お約束出来ませんが、力になれるのであれば...」


 俺の返事で、ようやく、顔を上げたアリエスさんの目から涙が溢れ、聞き耳や覗き見をしていた者たちが小屋の中になだれ込んできた。


 「あ、あ、ありがとうございます!ナイン様!うっ、うっ...ぐず....」


 ゲホッ、ゲホッ。

 なだれ込んできた者たちで土が軽く舞い、咳をしてまう。あと、臭い。

 良かった、これで救われる!みたいな感じで俺を見るのやめて。期待されても、何が出来るか分からないから。


 「えーと、とりあえず、うん。皆さん、落ち着いて下さい。」


 俺の言葉で、声を上げて泣く者たちが口を閉じながら泣く。確かに静かになったんだけど、すすり泣きだけになるとちょっと怖い。


 「アリエスさん。アリエスさん。」


 「はっ、申し訳ありません。ナイン様。ぐずっ。なんでございましょうか?」


 無理に泣き止めたのか鼻水が垂れているアリエスさん。美人の顔が台無しだけど、仕方ないよね。


 「えーと、まずは...いや詳しい話しは後にして、この辺りに水はありますか?」


 「水辺なら近くにあります。ご案内致します。」


 非常に申し訳ない。とても臭いから風呂に入って来いとは言えない。水辺に案内してもらう道中に、何とかして清潔にしてもらうよう誘導しなくては...

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