第20話

 授業が終わり休み時間に入る。クラスメイトは各々、友達の所に行ったりと移動している中、私は部屋から持って来たうちわを持って、寝ている悠ちゃんの後ろに回る──そして、パタパタと悠ちゃんの背中をうちわで扇いだ。


 少しして悠ちゃんの体がピクリと動く。おぅおぅ気付いたか? 悠ちゃんは上半身を起こし後ろを振り向くと、眉間にしわを寄せた。


「チー……そんなところで何をしてるんだ?」

「うっすい反応ね……人がせっかく悪戯してあげてるんだから、おぉ! とかリアクションしなさいよ、ダメダメね」

「俺が反応うっすいの、昔から知ってるだろ?」

「まぁね」


 私は悠ちゃんの顔に向かって、パタパタとうちわで扇ぎながら「可愛いうちわを買ったから見せに来たのと、久しぶりに絡んであげようかと思って来たの。嬉しいでしょ?」


 我ながら素晴らしい嘘だ。本当は悠ちゃんがまだ引き摺っていないか心配だったのと、美沙さんから解放された悠ちゃんに絡みたくてウズウズして、前から家にあった団扇を持って来ていた。


 私が悠ちゃんの部屋に行くことは多々あっても、悠ちゃんが私の部屋に来ることはあまりない。きっと団扇の存在はバレていないはず。


「まぁ……嬉しいちゃ、嬉しいかな」


 悠ちゃんが照れ屋さんなのは知っている。だけどそこは嬉しいと断言して欲しかった。私は団扇を止めると、「もっと素直になれば良いのに……まったくダメダメね」


「チーはどうなの? 俺とまたこうして話せて嬉しい?」

「え、な、なによ。行き成り」

「チーだって行き成りだったろ?」


 うぅ……そう来るとは思ってなかった。もちろん気持ちは嬉しい。ちょっと悪戯するだけで、こんなに気持ちが高ぶっているんだ。嬉しくない訳が無い。でも──。


「う~……嬉しいちゃ、嬉しいかな」


 私の返事を聞いてニヤニヤしながら私を見つめる悠ちゃんに、ちょっぴり腹が立つ。


「なに?」

「何でもないよ」

「じゃあ私、そろそろ席に戻るね」


 私は恥ずかしさのあまり、これ以上、悠ちゃんの側に居られなくて、自分の席に戻ろうと動き出す。


「あ、チー。今日の夕方、遊びに行って良いか?」

「うん。良いけど、どうしたの?」

「久しぶりに昔よく読んでた少女漫画、読みたくなってさぁ」

「あぁ、あれね。分かった」


 ※※※


 夕方になり、私は悠ちゃんが来る前に部屋の掃除を始める──。


「よし、これで大丈夫かな?」と、部屋を一通り見渡し、額の汗を拭う。


 汗かいちゃった……シャワーでも浴びようかしら? でも悠ちゃん来ちゃうだろうし、着替えだけにしておくか。


 私は制服の上下を脱ぎ始める──そこへコンコンとノックが聞こえてきた。え!? このタイミング!? 


 私は慌てて私服を取ろうと屈んだが──悠ちゃんは返事を待たずに部屋のドアを開けた。


「ファッ!」


 完全に油断した。返事をしなければ開けないと思ったのにッ! 悠ちゃんも私の姿をみてビックリしているのか固まっている。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとぉ! なにマジマジ見てるのよ! さっさと閉めなさいよッ!!」

「あ、ごめん!」


 悠ちゃんは慌ててドアを閉めてくれたが、あのタイミングだったら確実に見られてる!

 は、はずかしぃぃぃ……。でも悠ちゃん、私の下着姿をみてどう思ってくれたのかな?


 ちょっぴり気になるから「──まったく、ダメダメね……どうせだったら、もっとセクシーな黒を着ている時に入ってくれば良かったのに……」と、聞こえるか聞こえないか分からないぐらいのボリュームで本音を漏らしておく。


 私は白いパーカーにデニムのズボンに着替えると「──悠ちゃん、どうぞ」


 悠ちゃんは、ゆっくりとドアを開き、中に入ってくる。そんな悠ちゃんの行動を見ていると、悠ちゃんは私と視線があった事が気まずかった様で直ぐに視線を逸らした。


「あ、ありがとう」


 悠ちゃんの反応をみて、恥ずかしく思っている事は感じ取れた。それが私だからか、単なる異性だからなのか分からない。でも興味を持たれないよりは良い。いまはそれで満足だ。


 掃除はしてあるからと油断をしていたら、悠ちゃんはコソ練していたゲームソフトに目線を向けている事に気付く。


 しまった! そこは片付けていなかった! 私は慌てて駆け寄り、ゲーム機の上に出しっぱなしにしていたゲームソフトを棚に隠す。


「ちょっと! 何回も来てるからって、ジロジロ部屋を見ないでよ!」


 恥ずかしさのあまり口調が強くなってしまう。でも悠ちゃんは、気付いてしまった様で嬉しそうだった。


「──悠ちゃんの目的はこっちでしょ?」と、私はコミックを手に取ると、テーブルに置いた。


「おぉ、ありがとう」

「どうするの? 家で読んでく?」

「んー……邪魔になるから借りようかな?」

「ジュースぐらい提供するわよ? ここで読んでいけば?」

「じゃあ……そうさせて貰うかな」


 やったぁ! 用事がこれだけなんて寂しいもんね。私が喜んでいると、悠ちゃんはクッションの上に座りコミックを手に取る。


 私は部屋から出て行き──急いでオレンジジュースを持って来た。そしてテーブルにオレンジジュースを置くと、コミックを手に取り、俺の横に来てベッドに座る。


「──やっぱりこれ、面白ね」

「ねー」


 私が持っている巻は、幼馴染との恋愛シーンが描かれている……悠ちゃんが気付くかどうかは分からない。でも……少しでも意識してくれると嬉しいなぁ。私はそんな事を想い、ドキドキしながら悠ちゃんとの読書を楽しんだ。

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