第15話

 私達はいつもの通学路を通り、学校へと向かう──校門に入ると遅い時間という事もあり、同じ高校に通う生徒達がガヤガヤと賑わった様子で昇降口に向かってゾクゾクと歩いていた。


「千秋、おはよう」

「おはよう」


 私を見つけたクラスメイト達が、男女関係なく挨拶をしていく。悠ちゃんは邪魔をしない様にと思ってくれているのか、歩く速度を緩め、私との距離を離していった。別にそんな事しなくて良いのに……。


 ──ショートホームルームが終わり、10分後に1時間目のチャイムが鳴る。先生が教室に入ってくると、ガヤガヤと騒がしかった教室が、徐々に静かになっていった。


 先生が教壇の前に立ち「えー……では授業を始めます。教科書の23ページを開いてください」と指示を出す。


 私は言われた通り、教科書の23ページを開いた。


「じゃあ今日は12日だから──」と、先生は言って、出席番号12番の生徒をあて、教科書を読ませる。


 悠ちゃん……真面目に授業を受けているかな? つまらなくなると直ぐに寝ちゃうから、ちょっと心配。


 でも悠ちゃんの席は私の斜め後ろ。残念なことに監視することは出来ない。まぁ……大丈夫だよね。サボっている割には成績は良い方だし。


 ※※※


 チャイムが教室内に鳴り響き、授業が終わる。悠ちゃんはトイレに行くのか、席を立って教室を出た──早速、届けに行かなければ!


 私は悠ちゃんにバレない様にゆっくりと歩き後をつけた。本当は渡すタイミングなんていくらでもあった。でも渡しに行くシチュエーションが、何とも言えず高揚するので、わざとこのタイミングまで待っていた。


 ──悠ちゃんは用を足してトイレから出ると、案の定、ズボンで濡れた手を拭こうとする。


 そのタイミングで私は近づき、ちょっと強い口調で「ゆうちゃん……」と名前を呼んだ。


「悠ちゃん。いまズボンで濡れた手を拭こうとしたでしょ?」

「バレた?」

「バレない方がおかしいでしょ」


 私は悠ちゃんとのやりとりを楽しみながら、悠ちゃんの前で立ち止まる。上着のポケットからハンカチを取り出すと、悠ちゃんに突き出してきた。


「はい! まったく……ダメダメね。ハンカチぐらい持ち歩きなさいよ」

「ありがとう。ところでそのハンカチ、俺のっぽいけど……」

「そうよ、悠ちゃんのよ」

「えっと……どうやって持って来たの?」


 私は俺の質問の意図が分からず首を傾げる。


「どうやって? 悠ちゃんの洗濯の山から持って来ただけだよ」

「それって下着とかも……」


 はッ! そういう事か。悠ちゃんが意識している事を感じ取り、私も何だか恥ずかしくなる。でも悟られてなるものか! 

 

 私は平静を装い「もちろん、混ざってたよ──え、もしかして気にしてるの?」


「いや……別に……」

「でしょ? じゃあ私、教室に戻るから」


 ダメだ。恥ずかしさMAXでこれ以上は悠ちゃんの顔を見ていられない。私はそう言うと直ぐにクルッと背中を向け歩き出す。


「あ!」と私は御弁当の事を思い出し、立ち止まる。


「どうした?」と、悠ちゃんが声を掛けてくると私はクルッと悠ちゃんの方を向いて「そうだ悠ちゃん、ちゃんとお弁当、持って来た?」


 今朝、確認したから、もちろん持って来たことは知っている。でも悠ちゃんが御弁当箱を開ける瞬間が楽しみ過ぎて、ついつい確認したくなってしまった。


「あぁ。机の上に置いてあったから持って来たよ」

「そう。忘れないで良かったね」


 私は嬉しさを抑えきれずニコッと微笑むと、また悠ちゃんに背中を向けて教室に向かって歩き出した。

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