第16話

 昼休みに入り、教室が賑やかになる。私は自分の席に座ったまま、御弁当箱の包みを解き始めた──。


 悠ちゃん、そろそろお弁当箱を開けるかな? チラッ、チラッと悠ちゃんの方に視線を向けていると、「ねぇ、千秋。聞いてよぉ」と友達の理恵りえの声がする。


 私は慌てて理恵の方に視線を向け「な、なに? どうしたの?」と返事をした。


「あのさ──」と、理恵は御弁当箱を机に置き、私の席の前に座ると世間話を始める。


 さっき悠ちゃん。御弁当箱を机に置いていた。きっと今頃は蓋を開けている頃だろう。──悠ちゃんが喜ぶ姿を見逃してしまったけど……まぁ仕方ない。悠ちゃんの事だ。米粒1つ残さずに綺麗に食べてくれるだろうから、それで満足だ。


「ねぇ、千秋。あんた今日、ナチュラルメイク?」

「え? 違うよ。今朝、寝坊しちゃってさぁ……メイクする時間無くて」

「はぁ……メイクなしでそれ。良いな可愛くて」

「ありがとう。でも、そんな事ないよぉ……」

「あ。私、ちょっくらジュース買ってくるわ」

「うん、分かった」


 私は返事をして、御弁当を食べ進める──。


「チー、このまえ貸した漫画、今日とりに行って良いか?」

「な、な、なによ。いきなり」


 食べるのに夢中で完全に油断をしていた。まさかこのタイミングで悠ちゃんに話しかけられるとは……私は慌てて自分が食べていた弁当箱を腕でサッと隠す。


「今日、あの漫画の発売日なんだよ」

「あ~、そういうこと。帰ったら返しに行くから、あっち行って頂戴」

「分かった」


 見えた!? あのタイミングだったら御弁当の中身、見えたよね!? で、でも一緒だったかは気付かれないよね? 悠ちゃん、鈍感だし。


 そう思いつつも、私はバクバクと心臓を高鳴らしながら、御弁当を食べていた。


 ※※※


 学校から帰り、夕飯を食べると私は約束通り、漫画本を持って悠ちゃんの家に向かう──悠ちゃんの部屋に前に着くと「あ~……くそ! あと少しだったのに……」と、微かに聞こえてきた。


 なにがあと少しだったのかしら? そう疑問に思いながらコンコンと部屋のドアをノックする。


「どうぞ、勝手に入って」

「お邪魔するね」


 私がドアを開けると、悠ちゃんはゲームのコントローラーを一旦、床に置き「おー、チーだったのか」


「うん。約束の漫画、返しに来たよ」

「あぁ、そっか。後で読むから、机の上に置いておいて」

「分かった」

 

 悠ちゃんはコントローラーを手に取り、ゲームを再開する。私は悠ちゃんの後ろを通り、奥に進むと漫画を机の上に置く。そのあと悠ちゃんがやっているゲームが気になり、悠ちゃんの後ろにあるベッドに座った。


 悠ちゃんは私を気にする事なくゲームに集中する──悠ちゃんがゲームオーバーになるのをみて、私は「あ~……あ。ダメダメね」


「そういうなよ。このステージ、難しいんだぞ」

「へぇ……それ、なんてゲーム? 最近のやつなの?」

「うん、最近のやつ。これだよ──」


 悠ちゃんはゲームソフトの入っている棚から箱を取り出し、パッケージを見せながらタイトルを教えてくれる。私は手を伸ばし、箱を手に取ると、後ろの説明文を見ながら「ふーん……中古ゲームにあるかな?」


「興味あるの?」

「全然」


 本当は興味津々だ。これで悠ちゃんより上手くなれば、悠ちゃんとの距離はもっとグッと近づくかもしれない。


 私はその野望を悟られない様に、興味が無さそうに、無表情を演じて悠ちゃんに箱を突き返す。悠ちゃんは苦笑いを浮かべながら箱を受け取って、元の場所に戻した。


「じゃあ何で聞いたんだよ」

「うーん……何となく」

「何となくねぇ」


 私はスッと立ち上がると「それじゃ私、帰るね」


「え、もう? 新刊、読んでいかないの?」

「うん。だって悠ちゃんが買ったのに、先に読ませて貰うなんて悪いもの」

「気にしてないのに」

「それでもね。じゃあ、また明日」

「うん」


 ──本当はもう少し悠ちゃんと居たかったけど、駅前の中古ゲーム屋が閉まる前に行くため、後ろ髪を引かれる思いで我慢をした。

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