第10話
授業が終わり休み時間に入る。クラスメイトは各々、友達の所に行ったりと移動している中、俺は眠たくて机の上にうつ伏せになる。
──ん? なんだか背中に微かな風を感じるぞ? 俺は上半身を起こし後ろを振り向く。するとそこには、ニヤニヤと悪戯している時の子供のような満面な笑みを浮かべて、うちわで俺を扇いでいる千秋の姿があった。
「チー……そんなところで何をしてるんだ?」
「うっすい反応ね……人がせっかく悪戯してあげてるんだから、おぉ! とかリアクションしなさいよ、ダメダメね」
「俺が反応うっすいの、昔から知ってるだろ?」
「まぁね」
千秋は俺の顔に向かって、パタパタとうちわで扇ぎながら「可愛いうちわを買ったから見せに来たのと、久しぶりに絡んであげようかと思って来たの。嬉しいでしょ?」
前に千秋の部屋に行った時、千秋の好きなキャラクターが入ったあのうちわを見た事がある。きっとまだ俺の事を心配して様子を見に来てくれたんだ。嬉しくない訳が無い。
「まぁ……嬉しいちゃ、嬉しいかな」
素直に嬉しいっていうのが照れくさくて、濁す様に言った俺の言葉が気に入らなかったのか、千秋は不満そうに眉を顰めて、うちわを止める。
「もっと素直になれば良いのに……まったくダメダメね」
「チーはどうなの? 俺とまたこうして話せて嬉しい?」
「え、な、なによ。行き成り」
「チーだって行き成りだったろ?」
「う~……嬉しいちゃ、嬉しいかな」
同類じゃねぇか。俺は何も言わず照れ臭そうにしている千秋を見つめる。そんな姿をみているだけで、御飯が何杯もいけそうだ。
「なに?」
「何でもないよ」
「じゃあ私、そろそろ席に戻るね」
千秋はそう言って自分の席に戻ろうと動き出す。
「あ、チー。今日の夕方、遊びに行って良いか?」
「うん。良いけど、どうしたの?」
「久しぶりに昔よく読んでた少女漫画、読みたくなってさぁ」
「あぁ、あれね。分かった」
※※※
夕方になり、俺は千秋の家にお邪魔して、二階にある千秋の部屋に向かう。コンコンとノックをすると「邪魔するよ」と中に入った。
「ファッ!」
千秋が目を見開き、ビックリした様子で俺を見つめる。そりゃ当然だ。千秋は制服から私服に着替えようとしていた様で、上下ともに白の下着姿になっていた。レース付きで可愛いやつだ。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとぉ! なにマジマジ見てるのよ! さっさと閉めなさいよッ!!」
「あ、ごめん!」
俺は慌ててドアを閉める。でも見るものはちゃんと見てしまった。ラッキースケベというやつだ。
「──まったく、ダメダメね……」
返す言葉もございません。行き来するのに慣れているとはいえ、返事をしてから入れば良かった。
「どうせだったら、もっとセクシーな黒を着ている時に入ってくれば良かったのに……」
へ? そ、そっち? 千秋は聞こえていないと思っているのか、ボソッと小声でそう言った。心臓がバクバクしているぐらい動揺しているから、隠し通せるか分からないが、とりあえず入る時は聞こえなかったフリして入ろう。
「──悠ちゃん、どうぞ」
「あ、ありがとう」
部屋に入るとフワッと女の事の部屋と思わせる石鹸系の良い匂いがする。部屋が広いのに相変わらず綺麗に整理されていて、すんなりと奥へと進めた。
白いテーブルにタンス……白を基調にした家具が多く、千秋が白を好きなのが分かる。その中で様々な種類の縫い包みたちが飾られていて、清楚感の他に可愛らしさもある部屋だ。お、あのゲームソフトは……。
千秋は俺の目線の先に何があるのか気づいた様で、慌てて駆け寄りゲームソフトを棚に隠す。
「ちょっと! 何回も来てるからって、ジロジロ部屋を見ないでよ!」
千秋……俺と一緒にやったパズル系のゲームを持っている事がバレて恥ずかしかったんだな。買ったタイミングがいつだかは分からないが可愛い奴め。
「──悠ちゃんの目的はこっちでしょ?」と、千秋はコミックを手に取ると、テーブルに置いた。
「おぉ、ありがとう」
「どうするの? 家で読んでく?」
「んー……邪魔になるから借りようかな?」
「ジュースぐらい提供するわよ? ここで読んでいけば?」
「じゃあ……そうさせて貰うかな」
俺はそう言ってクッションの上に座りコミックを手に取る。千秋は部屋を出ていき──オレンジジュースを持ってきてくれた。
千秋はテーブルにオレンジジュースを置くと、コミックを手に取り、俺の横に来てベッドに座った。
「──やっぱりこれ、面白ね」
「ねー」
千秋が持っている巻は、幼馴染との恋愛シーンが描かれている……一体、千秋はどんな気持ちで読んでいるんだろう? 俺はそんなことを気にしながらも、読書を楽しんだ。
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