第8話

 家に着くと直ぐに部屋に向かい、せっかく買ってきたゲームソフトを床に放り投げる。脱力感で何もする気になれず、ベッドに向かって倒れこむかのように横になった。


 ──しばらく何も考えずにボォー……っと、天井を見つめてから、ズボンから携帯を取り出す。


 メールを開いて宛先に美沙を入れると、本文に別れて下さいと一言だけ打ち込み──指を止めた。


 メールで別れ話なんて、馬鹿にされるかな? だったら電話? ──いや、今日はあいつの声を聞きたくない。


「はぁ……」


 ファストフード店に居た時、なりふり構わず怒鳴り散らせば良かったのかな? でも怒りが頂点に達していても、さすがにそこまでする勇気は無かった……まぁいいや、明日の部活が終わった後、呼び出して話をすれば良い。


 ※※※


 放課後になり部活の時間になる。女子部の方は今日、近々ある団体戦のメンバーを決めるため、学年問わず練習試合をしていた。


 運命的な何かがあるのか、今日も俺は美沙と後輩ちゃんとの試合の線審を任され、美沙側で試合を見ていた。

 

 ──順調に試合が進み、接戦が繰り広げられる。20対19でサーブ権は後輩ちゃん。このラリーで勝てば後輩ちゃんの勝利で、団体戦のメンバーが確定する。


 そういう状況だけあって、さっきまで部員の話し声がチラホラ聞こえていたが、いまはシーン……と、不気味なほど静まり返っていた。


 後輩ちゃんがスゥー……と息を整え、渾身のサーブを繰り出す。天井スレスレぐらいに高くて、惚れ惚れするほど綺麗なサーブが俺の方へと飛んでくる。これは対戦している側からみると、インかアウトか分からない素晴らしいサーブだ。


 美沙はラケットを振り上げ、フットワークで後ろに下がる。打ち返そうとした──が、アウトだと思ったようで途中でラケットを止めた。


 判定は──インだ。シャトルはちゃんとライン上に乗っていた。


「イン!」

「嘘ッ!」


 美沙は驚いたようで、サッと俺の方に顔を向ける。ズカズカと俺に近づくと「悠介、どこ見てるの? シャトルがラインの外にあるじゃない!」と、案の定、いちゃもんをつけてきた。


「これはシャトルが床に当たって、跳ねただけだよ!」

「ちょっとぉ……」


 美沙は顔を真っ赤にして怒りを露わにし、小声で「この試合が大事って分からないの? あんた私の彼氏でしょ!?」


 昨日の件も相まって、自分勝手な美沙に俺は怒りを爆発させる。


「──そんなこと知るかっ! そういうのはもう、うんざりだ……もう俺と別れてくれッ!!」

「な……なによ、それ!?」


 俺が歩き出すと美沙は引き留めようと俺の腕を掴んだが、力一杯、振り払う。そのまま振り向くことなく歩き続けた。


「ちょっと! 話ぐらいちゃんとしなさいよッ!」


 なにやら美沙の怒鳴り声が体育館に響き渡っていたが、俺はとにかく無視をして、体育館を後にした。

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