第5話
授業が終わり休み時間に入ると、俺はトイレに向かう──用を足しトイレから出ると、丁度、同じバドミントン部に入っている田口
トイレから出てくるところを見られるなんて、別に悪い事はしていないのに何だか気まずい気持ちになる。だけど美沙さんは気にしていない様で、ニッコリと笑顔を浮かべて俺に近づいてきた。
「おはよ、
「おはよう」
「今日も部活に行くでしょ?」
「うん、行く」
「じゃあさ、サーブの練習、付き合ってよ」
「いいよ」
「ありがとう。じゃあまた、部活で」
「うん」
美沙さんとの出会いは部活のサーブのイン、アウトを見て欲しいと話しかけられた所から始まった。
サーブを打つ人からは際どい所に打ち込むとインかアウトか分からない。試合ではサーブが浅いとスマッシュの餌食になるし、アウトだと思わせるギリギリのラインをつくことは相手のミスを誘えるので重要だったりする。だから誰かが線審をしてくれると大変助かるのだ。
それにしても、相変わらず美沙さんは綺麗だな……茶髪のショートボブにファッション雑誌に載っていそうなぐらい垢抜けた容姿が俺好みで、千秋以外、女子に話しかけられる事が滅多にない俺は、その時にちょっと話しかけられただけで、美沙さんが気になりだしていた。
短いスカートから覗くスラッと白くて綺麗な足も魅力的だし……と、教室に向かう美沙さんの後姿を見つめていると、後ろから冷めた様な低い声で「デレデレしちゃって……」
後ろを振り向くと、そこには千秋が立っていて、無表情で俺を見つめていた。
「チー、どうしたんだ?」
千秋はブレザーからまた、見覚えのある青いハンカチを取り出すと俺に差し出してきた。
「はい、どうせ今日も忘れるだろうと思って持って来てあげたよ」
「おぉ、サンキュー」
俺は千秋からハンカチを受け取ると、手を拭いてズボンにしまう。教室に戻ろうと動き出すと、「ねぇ、悠ちゃん」と千秋が話しかけてきた。
「ん?」
「悠ちゃんってさぁ……もしかして美沙さんに気があるの?」
「あ、なんだよ。いきなり……」
「さっきの悠ちゃんの表情とかみて、そうなのかな? って、思って……」
「まぁ……お前に隠す必要なんて無いからハッキリ言うけど、気になってるよ」
俺がそう言うと千秋は眉を顰め明らかに不安な表情を浮かべる。多分、俺の事が好きとかそんなんじゃなくて、幼馴染として俺の事を心配してくれているんだ。
「──美沙さんだけは、やめときなよ」
ほらね。千秋の情報網は広い。美沙さんの噂を知らない訳がない。
確かに美沙さんには男たらしだとか、悪い噂がある。でもそんなの、ひがんでる女が勝手に流している嘘だと俺は思っている。
だって話していたってそんな様子は見られないし、男たらしと言われている割には、男子と話している所をあまり見た事が無い。だから──。
「噂は聞いているけど、そんなの嘘だよ」
俺がそう答えると千秋は言いたい事があった様で口を開く……が、言葉を飲み込むかのように口を閉じて俯いた。
「──そう」と、千秋は返事だけして、ゆっくり歩き出す。俺も合わせて歩き出し、無言のまま教室へと向かった。
きっと……これ以上、話を続けると喧嘩をしてしまう。そう思ったのかもしれない。
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