第4話

 ある日の夜。俺がレース系のテレビゲームを楽しんでいると、千秋が突然、俺の部屋にやってくる。


 突然なのはいつもの事だが、何の用事で来たのか、千秋は黙って俺のベッドの上に座り、俺がゲームをしているのを見ていた。


「──チー、今日はどうしたの?」

「ん? 暇だから遊びに来ただけ」

「そう。あ、漫画なら棚にあるよ」

「ありがとう。でも今日は良いかな」

「そう」

「ねぇ、悠ちゃん。前にやってたパズルゲームはやらないの?」

「あぁ、あれ。なかなかクリア出来ないから、もう良いかな」


 レースが一区切りついたので、俺はコントローラーを床に置き、千秋の方に視線を向ける。千秋は不満そうに眉を顰めていた。


「チー、もしかしてやりたかったの?」


 ──チーは沈黙を挟み、首を小さく横に振る。


「うぅん、見たかっただけ」

「なんだよ。そうならそうと早く言えば良いのに……」

「だってそれ、悠ちゃんのゲーム機でしょ」

「気にするなよ」


 俺はレースゲームをやめ、ソフトを箱にしまう。続いてソフトが入った棚からパズルゲームを取り出し、ゲーム機にセットした。


「ちょっと待ってなぁ……」

「うん」


 俺はゲームが始まるとクリアできなかったステージを選択して、スタートする──最初は上手くいっていたが……やっぱり相手の必殺技で負けてしまった。


「ダメダメね」


 千秋が冷静にそういうので、ちょっとムッと来た俺はコントローラーを千秋に差し出し「じゃあチー、やってみる?」


「良いわよ」

「え、やるの?」


 てっきりそんなの出来る訳ないじゃない! って、返事が返ってくるかと思いきや、千秋はあっさりコントローラーを受け取り、自信があるのかニヤリと微笑む。


 日頃、ツンツンしていて、表情があまり変わらない千秋が、ふんす! と鼻息を荒くして、ギュッとコントローラーを握ってスタートを待っている姿が、何とも言えず可愛らしい。俺はゲームというより、そんな千秋の姿をジッと見つめていた。


「──あ~、もう! なんで! 時間ストップスキルなんてズルい!」

「そうそう、それが厄介なんだよ。それを発動させない様に、上手く敵のスキルをキャンセルするブロックを消さないとダメなんだ」

「そういうこと? あー……悔しい! もう一回やっていい?」

「どうぞ」


 ──千秋はコロコロと表情を変えながら、ゲームを楽しんでいる様子だった。俺も横から口を出しながら、一緒になって楽しむ。


「──あー……ダメだったかぁ……」

「今度は二人でやってみる?」

「え? 出来るの?」

「うん、出来るよ。実は二人でやった方が簡単に出来るんだ」

「えー……じゃあ何で誘わなかったの?」

「だって……チーは興味ないかな? って思って」

「悠ちゃんが興味あるものなら、私だって興味あるよ」


 小さい頃から千秋は、こうやってサラッと嬉しい言葉を口にする時がある。その度に俺は動揺してしまい、返しが遅くなってしまうのだった。


「──そうなんだ。じゃあ今度は、とりあえず誘う様にするね」

「うん!」


 照れ臭い気持ちになりながらも、俺は千秋の横に座りゲームを始める──。


「あ! チー、チー、金ブロック来た!」

「え? え? 金ブロックって何?」

「スキル効果が倍増するレアブロック! 青のブロックに重ねて!」

「青? ここ?」

「ちがーう!」

「──おー……見事に連鎖しなかったね」

「おーって、何で失敗したのに驚いてんだよ」

「ふふ、確かに」

「まったく……」

  

 って、言いつつも、そんなやりとりも楽しくて仕方がない。笑いが絶えない時間が続き、俺はどんどんゲームに集中していった。


「──悠ちゃん、そろそろやめにしない?」

「せっかく苦戦したステージをクリアしたんだ。もう少しやろうぜ?」


 俺がそう言うと千秋は困ったように眉を顰める。


「──まったくダメダメね。女の子をこんな時間まで引き留めて、どうするつもり?」

「え? どうするもこうするもないけど……」

「明日も学校だし、やめにしようよ。ね?」


 俺がまだ返事に迷っていると、千秋はコントローラーを床に置き、立ち上がった。


「じゃあ、また明日ね」

「あ……うん。また明日」


 ──俺は千秋を引き留める事が出来ないまま、部屋を出て行くのを黙って見送る。パタンとドアが閉まり、遊園地で遊んだ後のような寂しい気持ちが押し寄せてきた。


 まぁ……家が近いんだし、明日でも明後日でも、いつでも誘えるんだ。今日のところは明日の準備してサッサと寝るか。


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