第3話
昼休みに入り、教室が賑やかになる。俺は自分の席に座ったまま、リュックから弁当箱を取り出した。
──今日の御弁当包み、いつもより固いなぁと思いながら、ゆっくりと解き、御弁当箱の蓋を開ける。
ソーセージに、レタスとミニトマト……それに卵焼き。あとフライドポテトにアスパラガスのベーコン巻か……今日は色とりどりで盛り付けも綺麗だな。母さん、いつもより時間があったのかな?
さぁ……て、何から食べようかなと考えつつ、箸入れから箸を取り出す──まずは卵焼きを掴んで一口、口にした。
「ん?」
いつもは塩味だけど、今日は醤油だな。しかも砂糖も入ってる? これはこれで美味しいな。
──他のおかずも美味しくて無言で食べ進めると、ふといつも買っている漫画の発売日だと気付く。
そういえば最後の方はどんな終わり方してたっけ? 買う前にサラッと前のやつを読んでおきたいな。
俺は千秋の方にチラッと視線を向け、千秋が丁度、一人になるのを確認すると、弁当箱の上に箸を置き、立ち上がる。
──千秋の座っている席の横に着くと「チー、このまえ貸した漫画、今日とりに行って良いか?」と声を掛けた。
「な、な、なによ。いきなり」
千秋はいきなり声を掛けられて驚いた様で、慌てた様子で自分が食べていた弁当箱を腕でサッと隠す。
「今日、あの漫画の発売日なんだよ」
「あ~、そういうこと。帰ったら返しに行くから、あっち行って頂戴」
「分かった」
俺は返事すると直ぐに自分の席に戻る──千秋の御弁当箱の中身……チラッとしか見えなかったけど、俺とまったく一緒だった? ってことは、これを作ってくれたのは千秋?
まさかねぇ……いずれにしても米粒1つ残さず、御弁当の中身を空っぽにするか。俺はゆっくりと、ボリュームたっぷりの美味しいお弁当を味わいながら食べていった。
※※※
学校から帰り、夕飯を食べると俺は自分の部屋でテレビゲームを始める。最近、ハマっているのはパズル系RPGゲームだ。
これは赤色なら炎属性、茶色なら大地属性と、属性をもった同じ色のブロックを4つ以上、並べる事で、それに応じた技を出すことが出来る落ち物ゲームとなっている。ダンジョンの仕組みとかも属性を利用して解いていく形になっていたり、スキルを付け替えて強敵を攻略するなど、やりこみ要素もあるから飽きもせずに楽しめるゲームだ。
さぁて……今日は昨日、クリアできなかったステージをクリアするぞ! ──と、意気込みながらゲームをして一時間が経過する。
「あ~……くそ! あと少しだったのに……」と、呟くと、コンコンと部屋のドアがノックされる。
「どうぞ、勝手に入って」
「お邪魔するね」
千秋の声が聞こえ、俺はゲームのコントローラーを一旦、床に置き「おー、千秋だったのか」
「うん。約束の漫画、返しに来たよ」
「あぁ、そっか。後で読むから、机の上に置いておいて」
「分かった」
千秋は俺の後ろを通り、奥に進むと漫画を机の上に置く。そのあと部屋を出て行くと思いきや──俺の後ろにあるベッドに座った。
俺は千秋と会話することなくゲームに集中する。
千秋も話しかけることなく、俺がやっているのを見ていた──が、ゲームオーバーになると「あ~……あ。ダメダメね」
「そういうなよ。このステージ、難しいんだぞ」
「へぇ……それ、なんてゲーム? 最近のやつなの?」
「うん、最近のやつ。これだよ──」
俺はゲームソフトの入っている棚から箱を取り出し、パッケージを見せながらタイトルを教える。千秋は手を伸ばし、箱を手に取ると、後ろの説明文を見ながら「ふーん……中古ゲームにあるかな?」
「興味あるの?」
「全然」
千秋は本当に興味が無さそうに、無表情のまま俺に箱を突き出す。俺は思わず苦笑いを浮かべながら箱を受け取って、元の場所に戻した。
「じゃあ何で聞いたんだよ」
「うーん……何となく」
「何となくねぇ」
千秋はスッと立ち上がると「それじゃ私、帰るね」
「え、もう? 新刊、読んでいかないの?」
「うん。だって悠ちゃんが買ったのに、先に読ませて貰うなんて悪いもの」
「気にしてないのに」
「それでもね。じゃあ、また明日」
「うん」
──千秋が早く帰ってしまって、ちょっと寂しくなる。もう少し付き合ってくれても良かったのになぁ……と不安を抱えながら、ゲーム機の電源を切った。
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