魔女スカーレットと時計台のひみつ

ツキ

プロローグ

――むかしむかし、トキノワこくという国がありました。

 トキノワ国には二つの三日月が浮かび、空を竜が舞うのです。中央に、夜だけ赤く染まる不思議なお城があり、そこには美しい王女さまが住んでいました。

 真っ赤な髪、真っ赤な瞳に真っ赤なくちびる。人々はみな、彼女のことを「スカーレット」と呼びました。

 スカーレットの大きな魔力は人々を癒し、包み、トキノワ国は幸せに満ちていたのです。

 しかしある日のこと。スカーレットの恋した相手が敵国の王子だということがわかり、トキノワ国に暗い雲がたちこめました。

 その雲は、人々を恐怖におとしいれ、混乱と戦を招きます。

 やがてトキノワ国に激しい雷が落ち、スカーレットはこつぜんと消えてしまいました。

その後、スカーレットの姿を見たものは、誰一人としていないのです。




 それは、小さいころ寝る前にママが話してくれたおとぎ話のひとつ。

 悲しい話なのに、なぜかわたしはその話が好きで、ベッドの中でママに何度もおねだりしたんだった。


「ねぇ、ママ――」


 この日もいつもと同じように、ママが話す「スカーレット」の話に耳を傾け、おなじみの質問を投げかける。


「スカーレットは、どこかで幸せに暮らしているよね?」


 わたしがこう聞くと、決まってママは「そうね」と言って優しくほほえむんだ。

 だけどこの日はちょっと違った。

 ママはちょっと困ったように眉をよせて、わたしをじっと見て、


「いい? ひいろ。この先ママになにかあっても……心配しないで。このペンダントが輝き続ける限り、ママは大丈夫だから。約束して。――――……って」


 そう言って、ママはわたしの手にペンダントを握らせた。

 そのペンダントの中央には宝石みたいな赤い石が光り輝いていて、まるで「スカーレット」みたいだなって思ったんだ。


 わたしはこの夜のことを何度も何度も思い出す。




 ――ペンダントをもらった次の日、ママはとつぜんいなくなってしまったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る