エピローグ fly to the same sky

「疲れた……」


 ヒナが飛んだビルは歩いていくには遠かった。2時間もかかってしまったけれど、ちょうどいい。


 さっきまで暗闇に包まれていたというのに、ドレスに着替えている間に、朝日が顔を出して建物を彩っていく。


 彼女がいなくなってから色を失ってしまった世界。


 何故だか今日は特別色鮮やかに見えた。


 柔らかな風にゆれる木々。朝練に向かう学生たち。

 夜勤を終えて帰る大人たち。


 少しずつ騒がしくなっていく世界の中で、私は屋上の手すりに背中を預けて空を見上げた。


 雲一つない、青さがまだ少し欠けている空。


 貴女が死んでしまったあの日に少しずつ近づいていく空。


 でも、ヒナがいない。もうこの場所に彼女の痕跡はもう残っていない。当たり前だけど。


 みんなから愛されていたヒナ。

 ひっそりと心の中に孤独を育てていたヒナ。

 私を愛してくれていたヒナ。


 甘い鼻にかかった声で、私の名前を呼んでくれたヒナ。


 小さい頃から一緒にいたのに、貴女はちっとも私のことをわかってないね。

 貴女は幸せに、なんて……そんなこと言われたら、ヒナのこと忘れられないじゃん。


 私の人生は、貴女がいたからこそ輝いていたのに。


 いや、本当はわかっていたのかな。


 こういう言い方をすれば、私が後を追ってきてくれるって。


 無駄に勘が鋭かったもんね。


 その通りだよ、ヒナ。


 私も貴女と同じ青空へと飛び立ちます。

 

 だから、あの世で受け止めてね。

 

 カラダも心も。


 必ず貴女を見つけるから。


「もう独りぼっちにしないよ」


 ずっと一緒にいようね。


 手すりを乗り越えてふちに立つ。


 あと一歩踏み出せば落ちてしまう。


 純白のドレスが風に吹かれて、カラダを揺さぶった。


 下は見ない。多分、ヒナも見なかったはずだから。


 高いところが苦手だったもん。


 再び空を見上げ、視界に広がる青を目に焼きつけたくて瞼を閉じる。


 ごめんね。今日まで勇気が出なかった私を許して。


 同じ道を選んだ私を、「バカだなぁ」って笑ってね。


 ゆっくりと瞼を開いて、両手を広げた。


 鳥の翼みたいで悪くない。


 そうでしょ、ヒナ。


 一際風が強く吹いたその瞬間、私はカラダを貴女の空へと投げだした。


 お待たせ。


 今から貴女に会いに、ずっと言えなかった愛を伝えにいくから。


 あと少しだけ待っていてね。

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青い世界でまた再会 佐久間清美 @kiyomi_sakuma

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