第5話 空を飛んだ

「えっ……嘘ですよね?」


 ぎゅっとスマホを握りしめて、冷静になれと自分に言い聞かせて、

「ヒナが自殺したなんて、そんなの冗談ですよね」

 女性の警察官が坦々と語る事実を否定しようとした。


 でも、嘘じゃなかった。冗談じゃなかった。


 力が抜けてリビングの床に座り込む。


「どうかしたの」


 彼が心配そうに顔を覗き込んでくる。


 なにか言わなければいけないとわかっていても、カラダ中が震えてどうしようもない。


 受け入れたくない。信じたくない。


 ヒナが、ビルの屋上から飛び降りたなんて。


 昨日はいつも通りのヒナだった。

 結婚式に来てくれる約束もした。

 なのに、どうして。


 黙り込んだ私に、警察の人は、現場に私宛の遺書が残されていたと教えてくれた。


「すぐに……すぐに取りに行きます」


 言葉にできない苦しみと悲しみで押しつぶされそうだけど、私はヒナがどうして死んだのか知らなきゃいけない。


 誰よりも大切な人だから。


 この世界で一番、心の中でひっそりと愛した人だから。


「どうしたの、なにがあったの」


 膝をついて話しかけてくる彼に応えず、窓の外を見る。


 ヒナが飛び立った空は、雲一つない美しい青で彩られていた。

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