第5話 空を飛んだ
「えっ……嘘ですよね?」
ぎゅっとスマホを握りしめて、冷静になれと自分に言い聞かせて、
「ヒナが自殺したなんて、そんなの冗談ですよね」
女性の警察官が坦々と語る事実を否定しようとした。
でも、嘘じゃなかった。冗談じゃなかった。
力が抜けてリビングの床に座り込む。
「どうかしたの」
彼が心配そうに顔を覗き込んでくる。
なにか言わなければいけないとわかっていても、カラダ中が震えてどうしようもない。
受け入れたくない。信じたくない。
ヒナが、ビルの屋上から飛び降りたなんて。
昨日はいつも通りのヒナだった。
結婚式に来てくれる約束もした。
なのに、どうして。
黙り込んだ私に、警察の人は、現場に私宛の遺書が残されていたと教えてくれた。
「すぐに……すぐに取りに行きます」
言葉にできない苦しみと悲しみで押しつぶされそうだけど、私はヒナがどうして死んだのか知らなきゃいけない。
誰よりも大切な人だから。
この世界で一番、心の中でひっそりと愛した人だから。
「どうしたの、なにがあったの」
膝をついて話しかけてくる彼に応えず、窓の外を見る。
ヒナが飛び立った空は、雲一つない美しい青で彩られていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます