第3話 偽りの愛

 彼と付き合って2年目の春。


「僕と結婚してください」


 夜景が見える素敵なレストランで、薔薇の花束と共にプロポーズされた。


 テンプレすぎて笑ってしまいそうになったけど、彼の表情は真剣そのものだったから我慢した。


 あのね、私は本当は、貴方のことが全然好きじゃないの。


 一緒に行った遊園地、水族館、旅行、全然楽しくなかったんだよ。


「今日も楽しかったね」


 私の嘘を真に受けて、いつも素敵なデートプランを考えてくれたね。


 でも、一緒に時間を過ごしたかったのは貴方じゃない。


 ヒナなの。


 太陽よりも明るいヒナ。

 感動ものの映画を観るとすぐに泣いちゃうヒナ。

 私が悪口を言われたとき、私以上に怒ってくれたヒナ。


 泣きたいとき、苦しいとき、肩を貸してほしかったのはヒナ。

 貴方じゃないの。


 ごめんなさい。儚い花を育てるように、大切に愛情を注いでくれたのに。

 貴方と付き合っているうちに、愛せるようになれると思っていたのに。


 結局、愛せなかった。


 だけど、私は選ぶ。


 世界の大半の人が歩む、普通の人生を。


「私で良ければ……よろしくお願いします」

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