第14話 地下の宝物
その地下への入口部分は、
石造りの屋根の部分の下に地下へと続く階段があり、その屋根の部分にはたくさんのツタが生い茂っていた。そのため、気を抜いているとただ草木が生い茂っていて何もないと見過ごしそうなくらいだ。
「降りてみよう」
入り口付近にそれぞれバックパックを置き、皮鎧にこん棒と大盾のミシェルを先頭に、階段を降りていく。階段は、大人が三人並んで降りていけるぐらいの幅があった。
「けっこう長いね」
注意を払いながらもどんどん降りていくミシェル。いったん踊り場があり、さらに下へ降りていく。
「通路だ」
降り切ったところに通路がさらにまっすぐ伸びており、その先に空間。入り口に扉はない。
「行こう」
ミシェルがその入り口に進み、その後ろをクルトとヨエル、さらに二コラとピエール、最後尾にまだ灰色のマントで姿を見せているマルヴィナ。
「広間があるな」
ミシェルが中を覗き込んだ。
「大丈夫そうだが……」
六人が順に広間に入っていく。
そこは、三階建ての家ほどの天井の高さがあり、都市にある教会のホールの倍かそれ以上の広さがあった。床は平坦で椅子が並べられているわけでもなく、天井や壁が崩れたのか、大きな瓦礫が所々に散乱している。
「暗いな。何か灯りがほしいところだが……」
その広間の入り口付近は階段の上から来る外の光によってかろうじて視界があったが、広間の奥のほうは暗くてまったく見えない。
「待ってくれ……」
ピエールがさっそく詠唱を開始した。
「アーウームー……、チリチリライト!」
手のひらにチリチリした灯りが発生し、それを思いっきり放り投げた。カランカランと音を立てて、灯りが奥へと転がっていき、そのあたりを照らした。
「あれ……、何だろう?」
マルヴィナが何か見つけたようだ。
「ほら、あの一番奥にあるやつ」
指さしながら、歩き始めた。他の者もつられて歩き始める。
「ほら、台座の上に何か乗ってるよ」
確かに、すこし距離が遠いが、それはよく見ると大きな本に見える。
「なんだろうね」
何かの魔導書のように見える。マルヴィナが興味深げにさらに進もうとすると、
「待って、何かいる!」
二コラが叫んだ。
「下がって!」
ミシェルが叫んで前に出て、他のメンバーがさっと下がる。カサカサと音がして、周囲に大量の黒いものが湧いてきた。
「昆虫だ!」
広間の入り口付近まで後ずさっていく六人。人間の頭ほどの大きさのある、コオロギのようなかたちをした昆虫が、ずりずりと迫ってきた。
「どうする? やるか!?」
大盾を構えながらミシェルが叫んだ。
「戦ってみよう! こいつらぜんぶ倒して、あの本を入手するのよ!」
マルヴィナが叫んで、戦闘態勢に入った。同時に虫たちが襲い掛かってくる。
「はっ!」
大盾で何匹か受け止めながら、こん棒で叩くミシェル。
「おら!」
その右横で、棒を振り回して昆虫を叩き潰すクルト。
「うぐ!」
左横で、みぞおちに昆虫の頭突きを受けて悶絶するヨエル。立て直して小盾を構えなおす。
「さあ!」
ヨエルの横で小弓を背に納め、小剣で昆虫に対峙する二コラ。
「金剛顕現、アイアンスピア!」
ピエールが詠唱し、天井あたりから小さな槍が複数落ちてきて、
「これでどう!?」
マルヴィナが詠唱して床面が凍結し、十数匹が足をとられるが、
「ひえー! こいつら、大したことないけどどんどん湧いてくるぜ!」
クルトが泣き言を叫んだ。
たしかに、床か壁面に穴でも空いているのか、そのコオロギに似た昆虫が次々と湧いて襲ってくる。
「いったん引くか!?」
ミシェルが叫び、
「そうしよう!」
ピエールが答えると、後衛から次々と通路へ逃げ出した。
「それ!」
ミシェルも、最後尾で隙をみて前転宙返りで退き、階段を駆けのぼった。
「はあはあ。……追ってこないようだな?」
上がりきったところで、階段下を確認する。
息を整えたところで、作戦会議に入った。
「どうする? 確かに大して強くないが、数が多いな。もう少し戦ってみて数が減るのか確認するのもありかもしれんが……」
とミシェル。
「あの宝物が欲しいよね……」
とマルヴィナ。
「ディタが戻ってくる前に何とかしないとね」
と二コラ。
ヨエルが何か言おうとして、声につまってみぞおちあたりを手でなでた。
「ああ、たしかに、何かまとめて倒せる技がほしいな」
とヨエルの意を汲んだクルト。
「ピエール、あなた何か一気に倒せる呪文ないの?」
マルヴィナが聞いた。
「わたしの金属性呪文は単体攻撃が得意だが、数が多いとマナがつらくてね」
とピエール。確かにさっきの戦闘ですでにけっこう使ったのか、表情がふだんよりやつれて見える。
続けて、
「こういうときは火属性の範囲攻撃呪文があれば楽なんだが……。脆い相手なら少ないマナ消費で一気に片付けられる。あるいは、木属性呪文で絡めとるか」
なるほど、と他のメンバー。しかし、今はその火属性も木属性も使い手がいない。
「ディタも戻ってくるよね。どうしよう、あの本欲しかったのに」
マルヴィナがまだ悔しそうだ。腕組みして、顎に手をあてて、
「そうだわ……」
とヨエルのほうをきっと睨みつけた。ヨエルの腰の紫鞘の剣と、ヨエルの顔を交互に見る。
「あなた」
その言葉に、ヨエルが少し顔をしかめて身構えた。
「その剣を抜いてもらおうかしら」
「剣? 僕はちょっとこのあたりが痛いんだけど……」
「言い訳してないで、あの剣士だったらすぐに取って来てくれるわきっと」
さっさとしてとマルヴィナはヨエルから短槍と小盾を受け取った。
「わかった……」
地下階段の前で、ヨエルが肩幅に足を踏ん張り、紫鞘の剣を持って構えた。
「少し離れてて」
そう言って、目をつぶった。
「よし!」
そう小さく力を込めると、カチャンと鞘から抜ける音。同時に、ヨエルの体が前のめりに傾きだした。
それを受け止めようと二コラとクルトがすくっと立ち上がって回り込もうとしたとき、
「え?」
「いない?」
受け止めようとしたヨエルの体が、すでにそこに無かった。
そして、
「……、子どもの遊びに呼び出されては困る」
階段したから、コツンコツンと誰かが上がってきた。
「え?」
皆が呆気にとられていると、
ヨエルに似た、鋭い目つきの人物が階段から登ってきて、正面に立っていた二コラに分厚い本を手渡した。
二コラがそれを受け取ると、その人物は少し歩いてのちに紫鞘の剣を抱いて地面に座り込み、
「この程度の状況でわれを呼び出すとは、笑止、千万に値す。万人級の使い手、それ以上であらずば、我が剣技活きず、焼け石に水がごとく……」
ふっと笑い、そして目を閉じかけて、やめてふとクルトのほうを見た。
「そなた、コルクと申したな。火炎棒を用いよ」
「え? おれの名前はクルトだけど……、火炎棒?」
名前は間違っていたが、まさか話しかけられるとは思っておらず驚くクルト。
「そうだ。だが、その棒は店では売っていない。店では買えん、火炎棒だ。必ずそなたの修行の助けになる」
「店では買えん、火炎棒……」
覚えるためにその言葉を口の中で何度も繰り返したクルト、さらに何か聞こうとしたとき、その人物は剣にもたれて座ったまま、すでに寝息を立てていた。
「本見せてよ!」
二コラがマルヴィナの前で本を開いて見せた。
「これ、何の本だろう……」
「ふむ、木属性魔法のようだな」
横から覗いたピエールが呟いた。
「ふうん、木属性か」
マルヴィナが何を期待していたのかわからないが、少し期待外れだったようだ。
「これは、君が持っていくべきだな」
ピエールが、二コラを見て言った。
「え? 僕が?」
二コラが驚いてピエールを見返した。
「おそらく君は木属性魔法の適性がある。これを読んで、勉強してみたらどうかな?」
「僕が木属性魔法……」
まるでそんなことは考えたこともなかった、という表情の二コラだったが、コクリとうなずいてみせたとき、
「おーい! みんなー! こんなとこにいたんだ」
ディタがすぐそこまで来ていた。
二コラが木属性魔法の本をそっと後ろ手に持ち、ヨエルが眠そうに目をこすりながら立ち上がる。
「じゃあ、今晩泊まるキャンプ地目ざして、進もうー!」
ディタの元気な掛け声とともに、それぞれがバックパックを担ぎなおした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます