第3話 冒険部

 ついに部室へとやってきていた。


ディタに連れられて、クルトとニコラとマルヴィナが中に入ると、

「うわあ、なんかいっぱいあるぞ」

最初に入ったクルトから驚いた声。


たしかに、そんなに広くない部室の中央に大きな机があり、その机の上や壁や棚に所狭しとモノが置いてある。

「これは……」

「これは聖剣エクスカリバーね。歴代の部員のひとりが石に刺さっていたところを抜いて持ってきたらしいわ」

クルトの質問にディタが答えた。


「これは……」

クルトが立てかけてあった朱色の棒をとりあげた。

「これはニョイボーと呼ばれている、長さを測る棒で、自在に長さを変えられるらしいの。でも本当にそうだとすると、仮学法則に反しそうだし、長さを変えるトリガーもまだわかってないわ」

「へえ。どうすれば伸びるんだろう。少しだけ伸びろ、ニョイボー! てね……」

とクルトが声を出した途端、ぎゅんと手に反動が伝わってきた。


「え!? 今伸びなかった?」

クルトが驚いて棒を元の場所に戻した。

「こ、これは……」

部屋の反対側でニコラがなにか大きな曲がった棒状のものを指さす。

「それはヨイチの弓ね。どんな体勢から撃っても的に当てられるらしいの。でも、身長が三メートルぐらいないと使いづらいかも」

「わ!」

マルヴィナが何かにつまづいた。


「あ、それは光の鎧ね。伝説の勇者が魔王を倒したときに着ていた鎧だわ」

「そ、そうなのね。で、でも、こういうのって、ホンモノなのかしら……」

マルヴィナも半信半疑だ。

「確かにそうだね。でも、どの学校のどの部室にも、意外とすごいものが置いてあったりするとも聞く」

ニコラがどこからの情報なのかそう話す。

ほかにも凄そうな盾やドラゴンを倒せそうな剣や見たことのない年季の入った魔導書のようなものもあったが、きりがないのでいったん座ることにした。


「あ、椅子がないや」

マルヴィナの椅子がなかったので、周囲に座れそうなものを探す。

「これでいいかな」

円筒形の中央部が少しふくらんだものを動かそうとすると、

「あ、それは戦闘民族のドラムで戦闘中に鳴らすと半狂乱状態で戦えるやつね。でも、楽器だからあまり座らないほうがいいかも」

と言って、ディタが埃っぽい棚から何か引っ張り出した。

「これなんかどうかしら」

少しはたいてマルヴィナに渡す。小さな折り畳みの椅子のようだ。


「伝説の闘将が使っていた、赤備えの床机と呼ばれているアイテムだけど、座っていると気持ちが落ち着いて、敵が目前に迫っても悠然としていられるらしいの」

へえ、と答えてマルヴィナがそれを広げて座ってみる。

中央の机に対してやや高さが足りない気がしたが、しかし座ってみると確かに気分が落ち着いてきた。

「いいねこれ。授業中も使ってみようかしら」

さっそく本題に入った。

机のうえのものを少しどけて、ディタが大きな地図を広げた。その地図はやや古く年季が入っており、そのせいか狭い部室にほこりが舞った。


「ここがわたしたちがいるムーアで、東にレナ川が南北に流れているでしょ。ここをさらに南に行くと海があって」

地図上のほぼ中央にムーアと書かれており、南北に川があって北側は細くなって消えており、南側は徐々に太くなって地図のはしで消えている。その地図上には海は見えないが、レナ川が伸びる南の先に存在するのだろう。

「このレナ川の上流や下流に遺跡群があって、そこで冒険するの」

「ふうん、面白そうだね」

クルトとニコラが興味深げに地図を覗き込む。マルヴィナも、椅子が低いので少し腰を持ち上げて覗き込んだ。


「だけど、遺跡群まで行くためには川を移動する船に乗る必要があって、半日程度時間がかかるの。だから、ふだんは三連休を利用して、泊まりでいくのよ」

ディタも話すうちに興奮してきたのか声が大きくなってきた。

「へえ、その遺跡で一泊するの?」

「そう、危険生物も出現する可能性もあるから、テントでの寝泊りもすごくエキサイティングだわ」

「今の部員はディタ、あなたひとりなの?」

マルヴィナが聞いた。


「うん、もう上級生たちがみんな卒業しちゃって」

「顧問の先生は誰なのかな?」

今度はニコラ。

「わたしたち十九組の担任の、ピエール先生よ!」

「遺跡って実際にモンスターが出たり、なんかアイテムを拾ったりできるのかな」

とクルト。

「わたしは実際に見たことがないけど、わたしがたまたまいない間に上級生たちが倒したりしてたって聞いたことはある。アイテムも、本当は部活中に見つけたアイテムは学校に持ってこないとダメだけど、ときどきピエールが持って帰っていいって言ってくれるの」


「へえ。それは面白そうだね」

「どう? 仮入部してみる?」

そのディタの質問に、クルトとニコラが顔を見合わせた。

「部員が少ないのはかえって好都合だね」

「お金にはぜんぜん困ってないけど、何かと役に立つかもしれない」

よし、本入部しよう、ということで、ディタが持ってきた本入部用紙に三人が書き込んだ。

「今週末は残念ながら三連休じゃないけど、そういうときは近くの湖にピクニックに行くんだよ、みんなも行く?」


「オッケー! がんばろー! オー!」

四人で円陣を組んで気勢をあげると、その日の部活動が終了した。


 マルヴィナとクルトとニコラが家に帰ると、

父親役のヨエルがソファに座ってタバコの入っていなパイプを吹かしていた。


「やあみんな、おつかれさん」

新聞を広げてくつろいでいる。

キッチンでは、母親役のミシェルが夕飯の支度をしていた。

まだ夕飯が並んでいないが、部屋着に着替えた三人がダイニングテーブルに座った。

「学校はどうだった?」

ミシェルがサラダに入れる野菜を包丁でトントンと切りながら、三人に聞いた。

「あ、うん。なんとかなりそうだね」

クルトが答える。


「あたしが作った弁当はどうだった? 足りたかな?」

「あ、うん。午後に少しお腹が空いたけど」

とニコラ。

「もうちょっと大きいのにしたほうがいいかな?」

「いや、夕飯前にすこしお腹を空かせたほうがいいかもね」

とクルト。

やや時間が早かったが、料理が次々とテーブルに並べられていく。


「さあ、どんどん食べて。自分の好きな量だけ食べて、余ったらあたしがあとで食べるから」

と大きなボールに入った前菜や大小の小鉢が並んでいく。

スープは、自分で好きな大きさの器を選んで各自がつぐ。

「三つ子という設定は何か言われなかったかい?」

というミシェルの問いに、

「ああ、みんな特に気にしていないみたいだったはふ」

と口にものを含みながら答えたクルト。


「マルヴィナは勉強のほうは大丈夫そうかな」

今度はヨエルがマルヴィナに聞いた。

「うん、たぶん。なるべくちゃんと卒業したいわね」

落第して学校を辞めてグラネロ砦に戻るのは、それでもあまり問題なさそうな気もするが、あまりいい気分でもない。

「ヨエルとミシェルはどうなの?」

逆に聞き返した。

「あたしは基本的に家で家事だけど……」

「ぼくは花屋で仕事を続けるよ」

とそれぞれ答えた。


「そうだ、週末部活でピクニックに行くことになったけど、どうする?」

クルトが言った。

「ピクニック? 父兄も参加できるのかな?」

「参加者が多いとあたしたちのこと色々聞かれて困る気がするけど」

とミシェルも気にしているが、

「いや、部員もひとりだし、顧問の先生も融通が効きそうだから」

「じゃあ、行ってみる?」

とミシェルがヨエルのほうを見る。


「そうだね、週末あんまり家にいると、近所の奥さんがたがやってきて面倒だし」

ヨエルは家にいると何かと面倒なようだ。

「冒険部なんだよ」

「冒険部? 面白そうね。最近体がなまりそうで怖いし、少し実戦で動かさないとね」

ミシェルは、周囲の目を気にして早朝に近くの公園でトレーニングをしているようだ。だが、それだけでは当然物足りないのだろう。

「敵の都市に潜入している、と言っても、生活自体は何の変哲もない普通の暮らしだからねえ」

とヨエルも同意する。


「今週末は近くの湖にピクニックだから、そんなに大したのは出ないだろうけど、三連休は遺跡群に行くから、それなりのと遭遇するかもね」

クルトが、面白くなりそうだと両肩を順にぐるぐるまわした。

週末だけでも退屈な都市の生活から離れられそうで、家の中にやや活気が出てきた。

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