第26話 真犯人登場

 二階堂は午前0時過ぎ、『ピッコロ』というゲーセン跡地にやって来た。格闘ゲームの筐体の傍らに死体が転がっていた。「ニマルさん……」

 ニマルの背中にはボーガンの矢が突き刺さっていた。血は既に乾き切っている。俺に電話を掛けてきたのは一体誰だ?

 コオロギやスズムシの声が聞こえてくる。

 一体、誰がニマルさんを殺したのだろうか?

 二階堂は背筋を凍らせた。微かに気配を感じた。敵はボーガンを手にしているに違いない。

 グロック17を握る左手の掌が汗ばむ。

「ど、どこにいる?」

 ビュンッ!風切り音がして、ボーガンの矢が二階堂の脇腹に突き刺さった。

 敵はトイルの中から攻撃しているようだった。

 二階堂の視界が霞む。

 吉良史帆がトイレからゆっくりと現れた。比企、そしてニマルを殺した真犯人は彼女だったのだ。

 中ボスまで残り10匹だ。

 史帆が『将門伝サドンデス』に躍起になっているのには深い理由があった。史帆の一人息子、貫一郎ぬきいちろうが人質に取られていたのだ。貫一郎は宇和島市内の私立中に通っているが、6月のある日、修学旅行の前日に何者かに誘拐された。誘拐犯は不二子と名乗っていた。誘拐犯は『ルパン三世』の大ファンらしい。機械みたいな女の声だ。不二子は史帆のAndroidに、貫一郎のAndroidを使って掛けてきた。

《10月20日午後6時までに5000万を用意しなさい》

 受け渡し場所は後で指定するとのことだった。

 ボーガンは地下室から持ってきたものだ。あの地下室には外に出れる隠し扉があるのだ。

 比企を殺した後でアタッシュケースを奪った。手榴弾とマチェテが入っていた。比企は自動車会社に派遣されていたらしいが、どこで調達したのだろう?

 ニマルを襲った男は前田虫丸まえだむしまるって奴で、妹が不治の病らしい。仕事を探していたので、奇神館でベットメイキングなどの仕事をさせた。虫丸の現段階のレベルは4。尚、レベル4は最高ランクだ。『あと50匹も倒さないといけない』と言っていた。

『このゲームには絶対に勝たないと。犯罪が合法化されたから言いますけど、浦島市で鰐崎と刃って奴を殺したの俺なんです』

 虫丸は自慢気に言っていた。

『ピッコロ』で虫丸はニマルを襲ったが返り討ちに遭った。虫丸は女とは無縁で、未だに童貞だった。童貞どころじゃなくて、童帝だ。だから、ニマルを襲ったのだが、予想外に強く、さらに予想外のことが起きた。脱出したニマルを金髪のガキとドレッドヘアーのガキが襲ったのだ。2人はハンマーとバールでニマルをボコボコにしてくれた。

『女優だからってお高く止まってんじゃねーよ』

 金髪が瀕死のニマルに唾を吐きながら言った。トドメを刺すことなく2人はどこかへ消えた。

 虫丸はニマルを廃墟に引き摺り込むと、ボーガンでトドメを刺した。

 比企の泊まっていた『205』は防音室だ。史帆はランジェリーを見せて色仕掛けをした。たわわに実った乳房に釘付けになってる隙に、メリケンサックでボコボコに殴って始末した。

 痙攣していた二階堂がピクリとも動かなくなった。史帆は二階堂の死体を弄り、グロック17と弾薬を盗み出した。

 史帆は『ピッコロ』で『酔象すいぞう』と『麒麟きりん』を手に入れていた。


 醉象は、本将棋にはなく、小将棋・中将棋・大将棋・天竺大将棋・摩訶大大将棋・泰将棋・大局将棋に存在する。酔は新字体。醉象とは「発情して凶暴になった雄の象」もしくは「酒に酔って暴れる象」という意味で、仏教では凶悪な心のたとえに用いられる語であるが、なぜ将棋の駒の名前になったかは不明である。


 歴史的には、大将棋に現れたものが最初と考えられるが、1058年(天喜6年)と推定される興福寺境内跡からの出土品の中に「醉像」と書かれた習書木簡が含まれていた。


 16世紀の一乗谷朝倉氏遺跡から発見された174枚の駒のうち1枚だけ酔象があり、裏はおそらく太子であった。増川宏一は、当時は酔象のある小将棋とない小将棋の2種類が共存していたが、酔象のある小将棋はすでに衰退しつつあったと解釈している。


 江戸時代に書かれた『諸象戯図式』や11代大橋宗桂が建てた石碑の拓本によると、後奈良天皇が小将棋から醉象の駒を除かせ、現在の将棋の形ができたとされる。

 

 小将棋・中将棋では象と略す。仲人の成駒。成ると太子。


 動きの面で見れば、小将棋・中将棋では、成駒が元の駒の完全上位互換であるが、新たな動きが1マス追加されるだけの唯一の駒であり、大将棋ではそのような性質を持つ2種類の駒のうちの1つである(もう一つは悪狼→金将)。

 摩訶大大将棋では成ると王子になる。


 麒麟も、本将棋にはなく、中将棋・大将棋・天竺大将棋・大大将棋・摩訶大大将棋・泰将棋・大局将棋に存在する。

 中将棋・大将棋・天竺大将棋では成ると獅子になる。1手で玉将の動きが2回までできる。

 角行と同様、成らない限り何手かけても筋違いの場所に行けない駒である。麒麟の成駒である獅子は麒麟の完全上位互換であるため、実戦ではほぼ全ての場合において成りが選択され、かつ麒麟は成って獅子になると相当強力な駒になり、それだけでほぼ勝負が決まることも多いが、ただ中将棋では先獅子のルールの関係で麒麟の不成が戦略上有効になるケースもごく稀にある。また、成駒の獅子は中将棋において最強の駒であるため、序盤では前線に出ることはほとんどなく、機を見て中盤以降に活躍させるのが普通である。

 

 大大将棋・摩訶大大将棋・泰将棋では成ると大龍だいりゅうになる。横に何マスでも行け、斜めに3マス、縦に2マスまで行ける。飛び越えては行けない。 

 

 大局将棋の成駒は金翅きんし

 縦に何マスでも動け、横と斜め後ろに3マス動ける。この時飛び越えては行けない。また、斜め前に駒を3個まで飛び越えて何マスでも動ける。

 

 2つの駒を手に入れた史帆は最強のプレイヤーになった。

 

 ゲーセン跡を出た、史帆は宇和島駅周辺でモンスターと戦った。JRホテルクレメント宇和島(駅ビルに入居)、宇和島市学習交流センター「パフィオうわじま」、フジ宇和島店、うわじま銀天街などがある。

 駅前はひっそりとしており、人っ子一人いない。

 夜雀、針女、柳婆など愛媛を代表する妖怪が次々に現れた。酔象が夜雀たちを踏み潰した。

『カリビアン』という駅の南東にあるコンビニにやって来たときには残り3匹にまで迫っていた。

 悪婆あくばばが3匹現れた。町中を往来しているが人の目には見えないと言われている。産子を殺して喰らう。

 史帆は主人の母を思い出した。やたら家事に干渉してきて、貫一郎にお菓子をよく買い与える。虫歯とか心配してるのに困ったもんだ。野際陽子のぎわようこに似ていて、『だから、史帆さんはダメなのよ』が口癖だ。主人は会社の部下と不倫していたから離婚した。

「いつもいつも、うっせーんだよ!」

 麒麟を操り、悪婆を一気に3匹倒した。

 麒麟は形は鹿に似て大きく背丈は5mあり、顔は龍に似て、牛の尾と馬の蹄をもち、麒角、中の一角生肉。背毛は五色に彩られ、毛は黄色く、身体には鱗がある。古くは一本角、もしくは角の無い姿だが、後世では二本角や三本角で描かれる例もある。ゲームでは一本角だ。

 麒麟の角攻撃により、悪婆は一網打尽となった。

 普段の性質は非常に穏やかで優しく、足元の虫や植物を踏むことさえ恐れるほど殺生を嫌う。


 神聖な幻の動物と考えられており、動物を捕らえるための罠にかけることはできない。麒麟を傷つけたり、死骸に出くわしたりするのは、不吉なこととされる。

 史帆はコンビニを強盗することに決めた。看板はフック船長と思われる海賊だったが、店員さんは小柄なオバちゃんだった。史帆はグロック17の銃口をオバちゃんの眼前に突き出した。

「金を出しな?」

「ヒェェッ!!」

 オバちゃんはエロ本を立ち読みしている、メガネを掛けたデブに目で助けを求めたが、デブは頭を両手で覆い、「母ちゃん!母ちゃん!」と泣き叫んでいる。

「アンタの息子なの?」

 疑問に思って史帆はオバちゃんに尋ねたが、首を横に振った。

「分かってると思うけど、警察は助けに来ない。今じゃ、あのピエロたちがこの国を牛耳っている」

 広島の学校でいじめられっ子がダガーナイフでいじめっ子や先生をナイフで襲いかかったり、青森じゃニートがNHK職員を催涙スプレーで襲いかかったりした。どちらも犠牲者が出ずに済んだが。

 オバちゃんは大人しく売上金、40万円を献上した。死んだ比企のアタッシュケースに金を詰め込んだ。武器は手に入るし、金を運ぶアイテムは手に入るし、ついてる!

 

 

 

 

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