第20話 バイキング

 朝の陽射しが差し込むキッチンには、和樹、林檎、蜜柑、岐南の4人が揃っていた。テーブルには、バイキング料理がずらりと並べられており、4人はそれぞれお皿に好きな食べ物を盛り付けていた。


 和樹は目の前にある焼きたてのクロワッサンに手を伸ばし、満面の笑みを浮かべながらホイップクリームをたっぷりとのせた。林檎は、野菜のサラダやヨーグルトにビタミン剤を混ぜたスムージーを選んでいる様子だ。蜜柑は、ショートケーキやパンケーキのトッピングに生クリームをたらして、甘いものに夢中になっていた。


 岐南は、たっぷりのプロテインが入ったオムレツや、塩味のキノコ炒めなど、ヘルシーで栄養価の高い料理を選んでいた。彼女は自分の健康を大切にし、また、食べ物に対する知識も豊富なため、メニューについても他の3人よりも詳しく説明している。


 4人が自分たち好みの料理に取り掛かっていく中、会話も弾んでいた。

「比企さんを殺したのは誰でしょうね?」と、蜜柑。

「史帆さんか、ニマルさんのどちらかだろうな?」と、岐南。

「そう決めつけるのはどうかと思います」

 ブレンドコーヒーにガムシロを入れながら和樹が言った。

「俺の意見に文句があるのか?」

 岐南は穏やかそうな顔立ちをしていて、吉田栄作よしだえいさくにちょっと似ている。が、性格は攻撃的なようだ。

「そういうわけじゃないけど……」

「織田さんの言ってることも間違いじゃないと思います。この宿にいる人全員に動機がある」

 蜜柑がフォローしてくれた。

「ど、どういうことだよ?」

「岐南さんだって思いません? ゲームの参加者が少しでも減ってくれたら勝率が上がるって」

 蜜柑はどこか楽しそうだった。和樹はどことなく名探偵コナンに似ているような気がした。近松ニマルは山口智子やまぐちともこ、比企は薬丸裕英やくまるひろひで、二階堂は江口洋介にそれぞれ似ている。

「俺はそんなこと思ったことはない」

「本当に?」

 蜜柑がマジマジと岐南を見た。観念したのか、「まぁ、少しはあるかな?」と小声で言った。

「だからって俺じゃねぇからな!」と、慌てふためいた。

「ねぇねぇ」

 ずっと黙って話を聞いていた林檎が和樹に声をかけた。

「ん?」

「比企さんって暴行されて殺されたらしいけど、昨夜そんな音しなかったわよ」

「確かに妙だな?」

 和樹は宇和島を巡って『将門伝サドンデス』で遊びたかった。だが、どこで真犯人が命を狙ってくるか分からなかった。マンションのベランダから鉢植えが落ちてくるかも知れないし、ビルの屋上でスナイパーが待ち構えているかも知れない。敵は比企を殺した奴だけじゃない、犯罪が合法化されたから鬱憤の溜まった奴がバタフライナイフで襲いかかってくるかも知れない。


 二階堂は疑心暗鬼になり、1人部屋で食べた。こうなることを想定して予め、コンビニで買い込んでおいたのだ。チーズサンドを食べたがしょっぱかった。午後の紅茶ストレートでお口直しをする。茶碗のいらないカップスープを飲んだ。コンソメの味がほんのりしててホッとした。

 テレビを点けた。犯罪が合法化されたが、それらしいニュースは起きていないようだった。テロリストはまだ議事堂を占拠中らしい。

 白髪頭の評論家が長々と話をしている。

『犯罪が合法化された場合、日本は深刻な社会的問題に直面することになります。まず、犯罪が合法化されることで、人々は社会規範に縛られずに自由に行動することができるようになります。これによって、社会不安が広がり、人々が不必要なリスクを負うことになります。例えば、窃盗が合法化されると、人々は自分好みの商品を盗んでしまうことができ、その商品の所有者は被害を受けることになります。また、暴力行為が許容される環境になると、暴力犯罪が増加し、犠牲者や被害者が出ることになります。それに伴い、治安が悪化し、社会不安定に陥る恐れもあります。さらに、犯罪が合法化されると、警察や司法関係者は犯罪を取り締まることができなくなります。そのため、犯罪被害者を保護することができず、社会的不正義が拡大することになります。以上のように、犯罪が合法化された場合、社会に大きな混乱と不安が広がり、社会的な経済活動や人々の正常な生活が破壊されることになります。したがって、このような状況に陥らないよう、法律を守り尊重することが重要です』

 テレビを消して、ベッドに横になった。

「大変なことになったぞ……」

 二階堂の部屋は『203』だ。岐南や織田が賞金欲しさに襲いかかってくるかも知れない。武器を調達するべきだ。そのとき悲鳴が聞こえた。

「何が起きた?」

 ゴキブリ?蛾?いや、そんな感じではなさそうだ。きっと誰かが殺されたんだ!蜜柑?林檎?あの2人って両方名前が果物だが、実は姉弟なんじゃ?

 突然、充電中のスマホが鳴り出したので心臓が飛び出しそうになった。充電器からスマホを外した。ディスプレイには『070』からはじまる電話番号が表示されていた。元カノの電話番号に似ていたので電話に出た。

《あっ、近松です》

「どうかしたのか?」

《わっ、私、あなたの正体知ってるのよ?警察にバラされたくないでしょ?》

 クソッ!あの女!マシンガンで蜂の巣にして殺してやりたい衝動に駆られた。

《館1階、東にある緑色のドアの部屋に入って。暗証番号を入力しないと入れない仕組みになっている。番号は3621よ。そこには棺が置いてあるんだけど、棺の蓋を開けると隠し階段があるから降りて、地下室へ向かって?そこは武器庫になってるから、どれでもいいから武器を持ってきて》

 ニマルは自分の居場所を告げて通話を終えた。

 

 

 

 




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