第19話 新たなる惨劇
暗闇の中で二階堂は鴉沼で死んだ2人を思い出していた。
鰐崎も来輝も別の場所で絞殺され、あそこに放置された。かなりの労力を要する。もしかしたら犯人はたくさんいたのか?
この中に2人を殺した奴がいるかも知れない。停電中に撃たれたり、刺されたりしないとも限らない。二階堂はテーブルの下に潜った。
蜜柑は市川市内にある図書館で借りた、鷹山トシキって作家の『停電DESU』って小説を思い出して身震いした。
ある夜、都市のある地域で突然停電が発生し、街は真っ暗になった。人々は不安と恐怖に包まれながら、ストリートやビルの中を探検し始めた。
そんな中、ある建物で不気味な音が聞こえてきた。人々がその建物へと向かうと、そこでデスゲームが行われていることがわかる。そこで、無名の参加者たちは、殺人者でも被害者でもある可能性のあるゲームに巻き込まれる。
このデスゲームは、灯りのない暗闇の中で行われる。参加者たちは一定の時間内に、相手を殺すことで勝ち残る。そして、勝者には豪華な報酬が与えられる。
ゲームは始まり、真っ暗な建物の中で参加者たちは恐怖と絶望に立ち向かう。彼らは、自分が攻撃される前に誰かを倒さなければならず、時には知り合いや友達と殺し合うこともあった。そして、全員が生き残ることはできない。誰かが勝ち残るために、他者を殺害することを余儀なくされ、参加者たちは次第に人間性を失っていってしまう。
そうした中、主人公たちは過酷な状況を生き残り、真相を解決するために戦う。デスゲームを仕掛けた組織や人物めがけて勢力を張り、熾烈な戦いが繰り広げられる。全ての真相が解決される頃には、多くの人々の命が奪われ、この恐ろしいデスゲームの行方が明らかになる。
ここにいる人たちがそうならないとは限らない。
蜜柑を含む8人は大金を手にするために必死だ。
史帆はスマホの懐中電灯をONにした。
「ブレーカーを見てきます。皆さんは動かないで」
もしかしたら罠かも知れないと、比企は思った。ブレーカーを点検すると見せかけて別室に武器を取りに行ったのかも知れない。斧か?ライフルか?
が、その心配をよそに電気がつき、史帆が戻って来た。犠牲になっている者は誰もいなかった。
「皆さんご無事で何より」と、史帆。
再び皆、席に着いた。
その後は各地にいる妖怪の話になった。『幻想将門伝』をやっていると否応無しに妖怪の知識が豊富になる。
「
誰も首を縦には振らなかった。
「平四郎虫は、山梨県西八代郡六郷町(現・市川三郷町)に伝わる妖怪です。その昔、葛籠沢(現・市川三郷町)のある村で、金持ちの家の土蔵の宝物が盗まれたという騒ぎが起きました。しかし土蔵には、壁に小さな穴があったものの、子供でも入れないような小ささであり、どうやって中に入ったのかは誰にもわかりませんでした。騒ぎを見物していた者たちの中で平四郎という男が『そんな穴に入るのはわけない』と言い、穴のふちにゴザをあてがって体をうまく滑らせ、中にもぐりこんで見せました。村人たちは驚き、平四郎は日が経つにつれて土蔵破りの犯人と噂されるようになり、ついに役人に捕らえられてしまったんです。平四郎は必死に無実を訴えたものの、無実を証明することはできず、村人たちも嘆願することはなかった。無実の罪で罰せられることになった平四郎は、役人や村人たちに『必ず怨みを晴らしてやる』と言い残しつつ、首をはねられたんです」
あまりの長い話に和樹はうつらうつらしている。
「おぞましい話ね〜」と、林檎。
「ちょっと、トイレいいかしら?」
ニマルが立ち上がりながら言った。和樹はある女性議員を思い出した。
「話長かったかしらね?」と、史帆が申し訳なさそうに眉を顰めた。
比企は貧乏ゆすりし、蜜柑はポケットタイプのテトリスで遊んでいた。
「今どき珍しいな?」と、二階堂。
蜜柑はコンピュータ画面に夢中になっており、話が耳に入っていない。瞬時にブロックを配置し、テトリスのゲーム画面に向かって手を動かし、均等に積み上げていった。彼は、落ちてくるブロックを適切な場所に配置するために常に自分自身に言い聞かせを行い、プレイヤーとしてのスキルを高めていった。
比企はレベル3、倒した妖怪の数は95匹。8人のプレイヤーの中ではランキング1だ。主な戦闘エリアは群馬だ。
「送り狐って知ってますか?」と、比企が口火を切った。
「群馬県桐生市梅田町浅部字栗生に伝わる化け狐の童話だ。その昔、この地に化け狐が住んでおり、夜な夜な一つ目小僧や大入道に化けて人々を脅していた。ある者は化かされたことで病気になって寝込んでしまったほどだった。ある夜に山伏が夜道を歩いていると、狐が大木に化けて道を塞いでいた。山伏は狐だと見破り、仙術で
比企の長々しい話に和樹だけでなく、林檎までもうつらうつらしていた。
「もう、限界だ。寝よう」
ニマルは駅のコンコースを抜け、反対側に向かった。ニマルもレベル3、倒した妖怪の数は34匹。主な戦闘エリアは東京だ。
大猫は、日本各地の何箇所かに伝わる巨大な猫の怪異である。代表的なものとして『麻布の大猫』などといった名で知られる江戸笄町の大猫がいるほか、同じ江戸市中の大崎袖ヶ崎、紀伊国(現在の和歌山県および三重県南部)、越後国(現在の新潟県の本州地域)などに、それぞれ個別の大猫の記録がある。
「あれ、女優の近松ニマルじゃねーの?」
金髪のガキが近づいてきた。右手にバールを手にしている。
「マジで? でも、何でこんなところに?」
ドレッドヘアーのガキが近づいてきた。左手にハンマーを手にしている。
「その物騒なものは何?」
「ニュース見てないの? どんな犯罪しても構わないんだよ。俺たちガソスタでバイトしてんだけど、そこのマネージャーの態度が気に食わねーから、今からシメようと思ってたんよ」
金髪が一気に捲し立てた。
ニマルは身構えた。
「サインください」
ドレッドヘアーは朗らかに言った。
「マジック持ってない」
こんなことしてる間に、比企たちが廃墟に辿り着いてしまうかも知れない。
「じゃあ一緒に写真……」
「急いでるから!」
何かされるんじゃないかとビクビクしたが、2人はその場から立ち去った。
ゲーセンは『ピッコロ』っていう名前だったらしい。ニマルは暗い通路を通り、ゲーム機の光が弱々しく光っている。突然、彼女は何かに気づいた。物陰から不気味な音が聞こえ、彼女は冷や汗をかいた。次の瞬間、彼女は後ろから怪しげな男につかまれ、ゲーム機の上に投げられた。男はニマルの服を引き裂き、彼女を襲い始めた。ニマルは必死に抵抗し、咄嗟に手にしたゲームの拳銃で男を殴ったが、男はなおもニマルを襲い続けた。最後に、彼女は暗い通路に逃げるが、男は追いかけ、彼女を再び襲おうとする。しかし、ニマルは驚くべき勇気を持ち、彼女は男を追い払うために周りにある物を武器として使った。ニマルは怪我をしながら、『ピッコロ』から逃げ出した。
和樹は自室でニュースを見ていた。
政府は、人質を救出するためにすべての手段を講じ、交渉を始めた。しかし、3人組は強硬な姿勢を崩さなかった。彼らは、政府による対応や社会の不条理に抗議し、自分たちが抱える問題に対する解決を求めた。
ピエロは元自衛官、熊は元派遣社員、ウーパールーパーはヤクザだ。ピエロの仲間はアルジャリフって国に派遣されたが戦死した。備後はそのとき支援をしなかったらしい。熊は印刷工場や製鉄工場、ボールペン工場を転々とした。最後のボールペン工場では社員にする話も出ていたが、突然白紙になったらしい。婚約も破断になってしまったらしい。ウーパールーパーはとにかく販路を拡大させたかったらしい。組長から死刑宣告も受けていたらしい。
酔いが回ったのか、和樹は夢の世界に堕ちていった。
ゾンビがガソリンスタンドの陰から現れ、林檎をムシャムシャと咀嚼した。和樹は銃でゾンビを撃つが、弾は無惨にも林檎の頭に炸裂し、ドス黒い血を撒き散らしながら林檎は死んだ。
ハッと目を覚ますと貝殻模様の天井が目に飛び込んできた。カーテンから朝の光が差し込んでいた。ドンドンドン!ドアがノックされた。
一瞬、身構えた。もしかしたら、欲に目が眩んだ参加者の誰かも知れない。そいつはアイスピックを忍ばせている。ジュニアコルトをリュックから取り出そうか迷った。
「和樹!起きてる!?」
林檎の声だった。様子がおかしい。
「ちょっと待ってて」
昨夜は襲撃を警戒して鍵だけでなく、チェーンも掛けた。チェーンを外し、鍵を開けた。
「おはよ、ちゃんと寝れた?」
「林檎こそ大丈夫?」
「いつもより寝れた」
「そりゃあよかった」
「それより、近松さんが行方不明なんだ。それだけじゃない、史帆さんや比企さんもいないの」
ウワアッ!!
どこからか悲鳴が聞こえた。
「おまえはここにいろ!」
林檎に何かあったら大変なのでその場に残して、悲鳴のした方に向かった。『205』
ドアの前に岐南がへたり込んでいた。
「どうされました?」
和樹は岐南を揺さぶった。
「ひっ、比企さんが……」
岐南の顔は青褪めていた。
和樹は恐る恐る室内に入った。
比企はベッドで頭部から流血しながら仰向けで倒れていた。和樹は頸動脈を触った。ダメだ……死んでいる。
テーブルの上には書き置きが残されていた。メモ用紙に黒のボールペンで『警察に連絡したら皆殺し』と書かれてある。
「大変なことになった……」
元医者の岐南によって館の厨房にあるペティナイフとフォークで司法解剖がなされ、その結果、左肘の開放骨折や左腕の皮膚剥離が確認され、加害者による殴打などが致命傷となった可能性が高いとされた。
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