第18話 晩餐

 午後18時、奇神館の1階にある食堂に一堂は集まった。参加者は全部で8人。

 織田和樹、日高川林檎、有田蜜柑、近松ニマル、比企充、二階堂博之、岐南丈次、吉良史帆。


 大きなテーブルが中央にあり、8つの椅子が並べられている。

 一番前には、吉良史帆が座っている。彼女は上品な服装をしていて、茶髪の髪に赤いベレー帽が印象的だ。彼女の隣には、女優の近松ニマルが座っている。彼女の鮮やかな青い髪が目立っている。彼女は、瞳を紫に染める美女で、ふとした仕草がセクシーである。

 そのまた隣には、有田蜜柑が座っている。彼の黒い眼鏡が特徴で、参加者の中では最年少の12歳だ。彼の隣には、江口洋介に似た二階堂博之が座っている。


 史帆と向かい合うようにして織田和樹が座っていて、その隣に日高川林檎が座っている。林檎の横には比企充、その隣には岐南丈次が座っている。

 比企は、しっかりとした髭を生やし、岐南は、美しい切れ長の瞳で彼を見ている。

「それではサークルを開始します。皆さん、ご起立ください」と、史帆が立ち上がった。和樹は彼女は女優で歌手の知念里奈ちねんりなに似ていると思った。

 史帆はアップルジュース、蜜柑は烏龍茶、それ以外は生ビールだ。

「乾杯!」

 それぞれのグラスが音を鳴らす。

 比企はさっきのニュースを知った誰かが、グラスに毒を仕込んだかも知れないとビクビクしながらビールを飲んだ。毒などは入っておらず、比企は安堵した。

 和樹たちは着席し、それぞれ自己紹介をした。

 和樹は近松ニマルの自己紹介は印象的だと思った。俳優、近松文夫ちかまつふみおとハリウッド女優のムーン・ユリアの娘だ。

 10歳から児童劇団に所属し子役としてで芸能活動をしていた。

 1990年、『ツキヨノウサギ』でスクリーンデビュー。

 1992年、呂宋文吉るそんぶんきち監督の映画『恋について神戸』(1993年公開)のヒロインの台湾人に抜擢ばってきされ、大胆にヌードになる。

 1993年、『東京デスストーリー』でヒロインのライバル役を演じた。裏切った男の背中をフォークで刺すというサイコパスな役柄だった。が、それ以降メディアに出なくなった。

「うつ病を患い、ずっと療養していたんです。資金も底をつきかけ、ホームレスになるしかないと思っていた矢先に『将門伝サドンデス』に巡り合ったんです」

 林檎は鯛めしを食べながら話を聞いていた。

 鯛めしは愛媛県の郷土料理の一つとして知られるが、地域によって、大きく二つの種類に分けられる。 東予地方や中予地方では一般的な焼き鯛の炊き込みご飯を鯛めしと呼ぶが、宇和島市を中心とする南予地方では鯛の刺身を、醤油を主体としたタレに生卵、ゴマ、きざみねぎなどの薬味を混ぜたものに和え、ご飯に載せたものを鯛めしと呼ぶ。


 同地方にはひゅうが飯という味付けした刺身を米飯に載せて食べる料理があり、『鯛めし』はその鯛バージョンを指す名称であった。 元々は宇和島市の一部に伝わる家庭料理であったが、昭和50年代に、当時の津島町(現・宇和島市)に『六宝』という名称でひゅうが飯を出す店が現れ、他地域の人々にも知られるようになった。その後『生の鯛めし』は松山市など宇和島市以外の県内に広がり、やがて南予地方の名物とされるようになっていった。 昭和60年代には『鯛めし(ひゅうがめし)』と記載する例が多かったが、やがて『鯛めし』の名称に統一されていった。

 林檎は手を挙げた。

「話の途中でいいですか?」

「な〜に?」と、ニマル。

「いえ、あなたじゃないです。史帆さんって横溝正史よこみぞせいしに影響を受けていますよね?」

「鋭いわね?」

 林檎は2作目の『黒紋島こくもんとう殺人事件』を思い出していた。

 黒紋島は、小さな島である。その島に暮らす人々は、みな仲が良く、平和である。しかし、ある日、島の住人の一人が謎の殺人事件に遭遇する。事件の被害者は、お金持ちの老人、ウィリアム・ブックスであった。


 事件の当日、ブックスは、自分の屋敷でパーティーを開いていた。多くの人々が集まり、フードと飲み物が豊富に提供された。しかし、夜中にパーティーが行われている間に、ブックスが謎の手で殺害されたという。島の住人たちは、ブックスの死に驚き、彼が誰に殺されたのか、どのように殺されたのかを調査し始めた。


 調査の過程で、事件について多くの情報を得たと報告されている。一方、探偵のジョン・スミスと探偵のアキコ・サイトウは、事件を解決するために黒紋島にやってきた。


 彼らは、事件に関係するすべての人々と会い、事件の現場を調査し、事件に関する証拠を収集し、事件の真相を明らかにするために協力し始めた。


 探偵たちが集めた証拠の中で、ブックスの自宅に滞在していた女性、レベッカが怪しいと思われる矛盾した証言を行ったことがわかった。さらに、探偵たちは、ブックスの書斎で、レベッカの指紋が発見された。


 結局、レベッカがブックスを殺害したことが明らかになり、探偵たちは彼女を逮捕する。レベッカは、ブックスの財産を狙い、彼を殺害したのである。


 黒紋島の住人たちは、事件が解決したことに満足し、島を再び平和な場所にすることができた。


「黒紋島って獄門島に似てますよね? 海外の探偵が日本の事件に首を突っ込んでるのは、いささか疑問でしたが……」と、林檎は余計な一言を言った。

「出版社の人にも言われた」

「ごめんなさい、差し出がましかったですよね?」

「林檎はお節介が過ぎるんだよ。このまえもウチに来たとき掃除のことにアレコレ口出して……」

「だって汚いんだもん」

 和樹は鯛めしを食べ終え、伊予さつまを飲んだ。

 伊予さつまとは、愛媛県の魚と味噌を使った郷土料理。単に、『さつま』や佐妻汁などと呼ぶこともある。手間がかかるため、今日では家庭で作られることは少なくなり、専ら郷土料理店で出される料理となっている。

 その名のとおり、薩摩国から伝わったという通説のほか、南宇和郡の漁村に自然発生したという説、江戸時代にかつお漁民が考案したという説などがある。


 愛媛県下各地でさまざまな種類があるが、大別すると、冷や汁系とさつま系があるとされ、冷や汁は魚の代わりにイリコを用い、他の具は入れないことが多く、薄味であるなどの特徴を持つことから、「さつま」の原始形と見られている。


「あの、史帆さん?」と、比企。

「何ですか?」

「何で奇神館って呼ばれてるんですか?」

「この館では奇妙なことが次々に起きました。夜寝ている間に食べ物がなくなっていたり、体をくすぐられたり……」

「子供のいたずらじゃないの?」

 ニマルが苦笑いした。

「そんなんじゃありません」

「赤シャグマかも知れません」と、妖怪に詳しい林檎が言った。

 赤シャグマは、四国に伝わる妖怪。人家に住み着く赤い髪の子供のような妖怪で、座敷童子の仲間とする説もあり、座敷童子と同様、これが住み着いた家は栄え、いなくなると家が没落するともいう。


 愛媛県(伊予国)での例では、新居郡神戸村(現・西条市)などの町村の人家に住み着いていたとされる。夜に住人が寝静まった後で座敷で騒ぎ始め、台所にある食べ物を食べてしまう。

 広見町(現・鬼北町)や宇和島市の伝承では小坊主こぼうずとも呼ばれており、山仕事に出かけた男が家に帰ってくると、薄暗い家の中、囲炉裏で数人の赤シャグマが暖をとっており、男の帰宅に気づいた赤シャグマたちは床下へと姿を消したという。

 林檎が話を終えるとゴロゴロと遠雷が聞こえた。

「祟りじゃ〜」と、二階堂が茶化した。

「それって八つ墓村じゃないですか?」と、史帆。

「八つ墓村?」と、岐南。 

「『本陣殺人事件』(1946年)、『獄門島』(1947年)、『夜歩く』(1948年)に続く「金田一耕助シリーズ」長編第4作です。横溝は、戦時下に疎開した両親の出身地である岡山県での風土体験を元に、同県を舞台にしたいくつかの作品を発表しています。本作は『獄門島』や『本陣殺人事件』と並び称される「岡山もの」の代表作です。山村の因習や祟りなどの要素を含んだスタイルは、後世のミステリー作品に多大な影響を与えました」

 史帆の説明は実に分かりやすいと岐南は思った。

「僕、あまり推理ものは読まないんです」と、岐南。

「そうなんですね〜?」

 史帆は朗らかに笑った。

「ところで、二階堂さんって何の仕事されているんですか?」

「塾の講師です」

 流石さすがにヤクザと言うわけにはいかない。二階堂は龍造寺組に入る前、個別指導塾の講師をしていた。

 彼は、優秀な生徒を増やし、川上塾の売り上げを伸ばすため、腕を振るっていた。

 二階堂は、非常に明るくチャーミングな人柄であり、生徒や保護者を引き付ける力があった。彼が担当する授業には、非常に多くの生徒がやって来た。

 しかし、二階堂は、売り上げに追われる中、生徒たちのことを見落としてしまっていた。彼が過剰な販売によって、生徒たちの学力が追いつかなくなってしまった。

 川上塾長は激怒して二階堂を塾から追放した。

「先生って憧れるな〜、金八先生とか鬼塚先生とか」と、史帆。

 二階堂は史帆に心を奪われていた。

「あの〜議事堂が占拠されたのはご存じですか?」

 黙々と食事を続けていた蜜柑が唐突に言った。

 和樹はビールやレモンサワーをしこたま飲み、顔が真っ赤だった。

「二・二六事件みたいらな?」

「和樹、呂律が回ってないよ」

 林檎が心配そうに和樹の顔を覗きこんだ。

 二・二六事件とは、1936年(昭和11年)2月26日から2月29日にかけて発生した日本のクーデター未遂事件。

 皇道派の影響を受けた陸軍青年将校らが1,483名の下士官・兵を率いて蜂起し、政府要人を襲撃するとともに永田町や霞ヶ関などの一帯を占拠したが、最終的に青年将校達は下士官兵を原隊に帰還させ、自決した一部を除いて投降したことで収束した。この事件の結果、岡田内閣が総辞職し、後継の広田内閣(廣田内閣)が思想犯保護観察法を成立させた。

「殺されたのって犬養毅いぬかいつよしだよね?」

「林檎ってホント馬鹿だよね? 犬養が死んだのは五・一五事件。二・二六事件ってのは未遂なの」

「馬鹿って言うことないでしょ!?」

「まぁまぁ、ケンカはやめましょう?」

 史帆が間に入ってくれたので、それ以上激化することはなかった。

「あっ、そうそう。宇和島駅の西にあるゲーセンでは駒が2つも手に入るそうよ。廃墟だけどね?」

 史帆から耳寄りな情報を仕入れた。

 ズズーン!雷が近くに落ちたらしく、食堂の電気が一斉に消えた。

 和樹は停電が起きて、復旧すると人が死んでる映画を思い出してビクビクした。




 

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