第8話 連続殺人

 木通は河童を3匹、天狗を3匹、胴面どうのつらを2匹……計8匹を倒していた。

 胴面は、妖怪絵巻に描かれている日本の妖怪。首から上がなく、代わりに胴体に顔がある姿をしている。

 尾田郷澄『百鬼夜行絵巻』(1832年)にて、この名称が示されているが江戸時代に描かれた絵巻物には名前と絵があるのみで解説文は一切なく、詳細は不明である。『百物語化絵絵巻』にも同様のデザインの妖怪があかはだかという名前で描かれていることが確認できる。


 胸や腹にかけて顔のある存在は、刑天、ブレムミュアエ、カバンダなど中国やヨーロッパ・インドをはじめ、ユーラシア大陸各地に広く分布している。そのようなすがたの民族が遠く離れた異国に住んでいるという想像を通じて世界で描かれており、この造型もその影響下にあるものと考えられる。しかし、海外三十六国などには挙げられていないため、日本においてはその種の異国人物を描いた作品(『異国物語』など)には、このかたちのものが描かれる機会はほとんど無く、絵画としての類型は他の造型に較べると歴史的には数が少ない。そのため、具体的には『山海経』の絵図を通じて日本でも描かれる機会のあった刑天などがその手本となったと見られる。


 木通は、1ヶ月前に酸塊と杏が書庫でケンカしているのを思い出していた。

『アンタが文芸部部長になったら指揮が乱れるわ! この、才能なし!』

 杏は鬼の形相で酸塊に詰め寄っていた。

 確かに杏は才能がない。国木田独歩くにきだどっぽと、織田作之助おださくのすけの区別がつかないくらいだ。

 国木田 独歩(1871年8月30日(明治4年7月15日) - 1908年(明治41年)6月23日)は、日本の小説家、詩人、ジャーナリスト、編集者。千葉県銚子生まれ、広島県広島市、山口県育ち。

 幼名を亀吉、後に哲夫と改名した。筆名は独歩の他、孤島生、鏡面生、鉄斧生、九天生、田舎漢、独歩吟客、独歩生などがある。 田山花袋、柳田國男らと知り合い「独歩吟客」を発表。詩や小説を書き、次第に小説に専心した。「武蔵野」「牛肉と馬鈴薯じゃがいも」といった浪漫的な作品の後、「春の鳥」「竹の木戸」などで自然主義文学の先駆とされる。また現在も続いている雑誌『婦人画報』の創刊者であり、編集者としての手腕も評価されている。夏目漱石は、その短編「巡査」を絶賛した他、芥川龍之介も国木田独歩の作品を高く評価していた。ロシア語などへの翻訳がある。

 

 織田 作之助(1913年(大正2年)10月26日 - 1947年(昭和22年)1月10日)は、日本の小説家。戦後、太宰治、坂口安吾、石川淳らと共に無頼派、新戯作派と呼ばれ「織田作おださく」の愛称で親しまれる。『夫婦善哉』で作家としての地位を確立。

『うっせーブス! 酢豚!』

 酸塊も負けてはいなかった。杏は体臭がキツい上に、太っているから酢豚と馬鹿にされていた。

 結局、部長になったのは杏だ。嫉妬に狂った酸塊が殺った可能性は大いにある。


 胡桃は化け狸、河童、天狗、袖引き小僧の他にべか太郎を倒していた。倒した妖怪は5匹。

 べか太郎は日本の妖怪絵巻にある妖怪。松井文庫に所蔵されている江戸時代に描かれた絵巻物『百鬼夜行絵巻』(1832年)に両手で両目の下まぶたを下げ、口から舌を出すしぐさをした姿で描かれているが、どのような妖怪なのか詳細は不明である。


 おなじく江戸時代に描かれた絵巻物『百物語化絵絵巻』(1780年)では同様の格好をした妖怪があかんべいという名前で描かれているが、こちらも詳細は不明である。雑誌『太陽』75年8月号(特集「お化けと幽霊」)のカラーページでは、絵巻物(『百鬼夜行絵巻』の「べか太郎」)の写真が「べろり太郎」という名前で紹介されているが「何をし何処に出た妖怪かもわからない」と記されている。 なお、あかんべえのことを「べかこ」や「べっかんこう」とも言う。


 水木しげるの著書には、とても大食らいで、人間をも食べてしまう妖怪「ペロリ太郎」に「べか太郎」をモチーフとした図像が使用されている。このペロリ太郎は、あまりにも食いしん坊であるために両親に捨てられ、空腹のあまり人間を食べるようになった太郎という男が妖怪化したものだとされる。

 

 大地が殺したのは管狐くだぎつねだけだった。管狐とは、日本の伝承における憑き物の一種である。長野県をはじめとする中部地方に伝わっており、東海地方、関東地方南部、東北地方などの一部にも伝承がある。関東では千葉県や神奈川県を除いて管狐の伝承は無いが、これは関東がオサキの勢力圏だからといわれる。

 管(竹筒)に収まるほどの小型の生き物の様だが、普通はその使い手にしか姿は見えない。使い手は、クダ狐の力で他人の過去を言い当てたり、未来を予言出来たりといった占術が使えるとも、また、他人に災いをもたらす呪術を使えるともされた。伝承される地方では、家が栄えると、それはクダ憑きの家だからと不名誉な噂を立てられることがあった。娘が嫁ぐ度、75匹の眷属を伴っていくという言い伝えがクダや同系の妖怪について語られる。

 

 梅子が倒したのは管狐が2匹、天狗が2匹、河童が2匹の6匹だ。

 

 優勝候補は8匹倒している木通だ。次いで7匹の西瓜、6匹の梅子と続く。

 

 もうじき19時になろうとしている。

 有田蜜柑は高卒後、刑事になった。先輩の日高川林檎から毎日怒鳴られていた。

『アンタには刑事としての才能がないわよ!』

 食堂でカレーうどんを食べ終え、舌打ちをした。

 刑事部屋に戻ると、林檎警部が受話器を握りしめなかまら「ええ、ええ……」と真剣な眼差しで答えている。やがて、受話器を置いて「また、殺しよ」と鋭い視線を蜜柑に向けた。

「どこでですか?」

「東浦島の住宅街」

 蜜柑と林檎は覆面パトカーに乗り込んだ。蜜柑が運転にあくせくしているのに、林檎は助手席でウマ娘とコラボした赤い缶コーヒーを飲んでいる。

 

 小雨梅子が、自宅の寝室でうつぶせで倒れていたところを夫が発見したことによって事件が発覚した。

 司法解剖の結果、死因は窒息死。

「遺体に目立った外傷はないが、鼻と口に粘着テープが貼られ、両手足はひもで縛られている」と、梅子。

 さらに梅子のワゴン車は自宅からは無くなっていて、同日中に事件現場から直線で4km離れた国道の側道で発見されている。

 梅子が亡くなった杏の顧問だと知って、林檎は驚愕した。

 スマホを調べたら梅子は『将門伝サドンデス2』に参加していたことが明らかになった。

「今回も優勝したら大金が手に入るみたいですよ」と、蜜柑。

「面白そうね」と、林檎。

 梅子は7匹倒していた。新たに座敷童子を倒していた。

 主に岩手県の妖怪。


 一般的には、赤面垂髪の5、6歳くらいの小童というが、年恰好は住み着く家ごとに異なるともいい、下は3歳程度、上は15歳程度の例もある。髪はおかっぱ、またはざんぎり頭。性別は男女両方が見られ、男の子は絣か縞の黒っぽい着物を、女の子は赤いちゃんちゃんこや小袖、ときには振袖を着ているという。はっきりとした姿がわからないために、性別が不明な場合もあるという。男女2人など複数が家に住み着いていることもある。黒い獣のような姿、武士のような姿といった伝承もある。


 悪戯好きで、小さな足跡を灰やさらし粉の上に残し、夜中に糸車を回す音を立てるともいわれ、奥座敷で御神楽のような音を立てて遊ぶことがある。また家人が一人で縫い物をしていたとき、隣の部屋で紙ががさがさする音や、鼻を鳴らす音がするので、板戸を空けると誰もいないなどの話が伝わっている。夜になると客人の布団の上にまたがったり枕を返したり、悪戯をして眠らせまいとするが、押さえようとしても力が強くて歯が立たないともいう。子供と一緒に遊んだりもする。


 岩手では早池峰神社の座敷童子が、遠方から神社に参拝に来ていた者について別の土地へ行くという伝承がある。その土地の子供たちに、岩手のわらべ歌を教えたという伝説もある。


 青森県五戸町では家を新築する際、床下に金の玉を埋めておくと、座敷童子を呼ぶことができるという伝承がある。


 姿は家の者以外には見えず、子供には見えても、大人には見えないとする説もある。子供たちの数を大人が数えると、本来の人数より1人多いが、大人には座敷童子がわからないので、誰が多いのかわからないといった話もある。こうした話は、文学上でもよくモチーフとなる。


 明け方、枇杷島大地は教頭から梅子が殺されたことを電話で知らされた。ビックリするのと同時に、担任に昇格して給料が上がるんじゃ?と、ワクワクした。

 

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