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@D_sh

花を見つけるお話

あぁ、と思わず嘆息が溢れる。

2週間に渡るフィールドワークで最後に訪れたのはとある廃村。まるで村全体が自然で包み込まれているようで、見渡す限り美しい緑が広がっていた。木で出来た家もその自然の中に馴染んでいて、とても幻想的だ。

「寄棟造…屋根には花が咲いていますね。」

「えぇ、補強の為に植えられていたのではないかと考えられています。」

ガイドに案内してもらいながら村を探索する。屋根の花が家によって全て異なり、1つとして同じ花はない。誰の家か判断するための意味合いも兼ねていたのだろうか。どれも太陽の光を受けてキラキラと輝いていてとても美しい。鶴瓶井戸には青色の朝顔が咲いている。頭上を赤色のイトトンボが通り過ぎ、さぁっと草先を揺らした。

ふと、1輪の花に目がとまった。つい先程イトトンボがその上を通った、まだ微かに揺れている花。赤橙や梔色に囲まれてぽつんと佇むその青は、不自然というよりもむしろ他の花がその1輪を引き立てる為だけにあるかのように思えた。そう思えてしまうほど、美しく、見た者を魅了させる雰囲気を放っていた。

「…ノアだ」

「何かございましたか?」

ガイドに訊かれていえ、と慌てて返す。

「花が…とても綺麗だなと。都市部ではなかなか見られない種類のものばかりで珍しくて。写真を撮っても?」

どうぞという返事を待ってファインダーを覗く。彼女…ノアの瞳によく似た花だ。相手を射抜く様に真っ直ぐで、きらきらと輝いていて、海のような、星空のような色をしている。カシャとシャッターの人工音が響いた。

帰ったら、この写真を彼女に見せよう。綺麗な所だったよって、沢山フィールドワーク先の話をして、お土産も食べながら2人でのんびりとした時を過ごそう。

「それでは、少し先に進みましょうか。」

ガイドの声で意識が浮上する。えぇ、と返事をして歩き出す。少し足取りが軽くなったような気がした。

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