第148話 魔王と友達になれるかも

「武装工房車シュフィール号。おれたちは、これで魔王に会いに行くんだ」


「パパ、魔王をやっつけにいくのですか……?」


 おれの呟きに反応したのは、ハルトだった。


 レジーナに連れられて来たらしく、工房の入口で立ちすくんでいる。


「レジーナ、どうしてこんなところに?」


「みんな、寂しがってたから。会わせてあげようと思って……」


 見ればロイドも来ていた。レジーナの足にしがみつくように隠れている。そしてレジーナは、リムルを抱いている。


 おれはしゃがんで、ハルトやロイドに視線を合わせる。


「ごめんね。寂しがらせちゃって」


 するとロイドは黙って歩いてきて、甘えるように抱きついてきた。よしよし、と頭を撫でてあげる。


 ハルトは武装工房車を見上げてから、また問いかけてくる。


「パパたちは、魔王をやっつけるために、これを作っていたのですか?」


 黄色い瞳を輝かせておれを見つめる。


「パパはやっぱり勇者さまなんですね」


「いや。おれたちは魔王をやっつけるつもりはないよ。話をしに行くだけなんだ」


「どうして、うそをつくのですか?」


「嘘?」


「だって、あれは武器です。武器は敵をやっつけるためのものです」


「よく、わかったね」


 剣や槍のような一般的な武器の意匠はない。大砲は搭載しているが、ハルトは大砲を見たことはないはずだった。


「みればわかります」


「やっぱりハルトは天才だね。君の血かな、ソフィア」


「いいえ、眼力ならきっとショウさんの遺伝です」


 おれはソフィアと軽く笑い合ってから、ハルトに向かう。


「あれは確かに武器だけど、あくまで自衛のためのものだよ。おれは本当に、魔王と話してみたいんだ。できるなら友達になりたいと思ってる」


「悪い人なのに?」


「本当に悪い人なのかは、話してみないとわからないよ」


「じゃあ、はなして、悪い人だったら?」


「そのときは、しょうがないね。やっつけるしかないかな」


「ぼくも、おやくにたてませんか? つれていってください」


「それはできないよ」


「ぼくは、天才ですごいのでしょう? なのに、だめなのですか」


 食い下がってくるハルトに呼応して、ロイドも恐る恐る手を上げる。


「ぼくも……いきたい。キメラさんに、会ってみたい」


「ふたりとも、ごめんね。これは大人の役目なんだ」


 ハルトはしゅんと顔を下げてしまう。


「パパはぼくたちがきらいですか?」


「そんなことない、大好きさ! 大好きだから、とっても大きなプレゼントをあげたいんだ。君たちへのプレゼントを作るのに、君たちに手伝ってもらうわけにはいかないよ」


「……プレゼント?」


「今より良い世界だよ」


「よくわかりません」


「そのうちわかるよ」


 ハルトが口をつぐむと、ロイドがまた控えめに手を上げる。


「ぼくは、キメラさんがいい」


 にこりと笑って、アリシアがロイドを抱き上げる。


「わかった。可愛い合成生物キメラを見かけたら、連れてくることにする」


「うんっ。おねがいしますっ」


 嬉しそうなロイドとは違って、ハルトは子供なりに難しい顔をしている。


「パパの言うこと、まだよくわかりません。でも、きいてくれるなら、ぼくもおねがいしていいですか?」


「もちろんいいよ」


「もしも、パパが魔王とおともだちになれたら、ぼくにも会わせてください。いい人なら、ぼくも、おともだちになってみたいです」


「それはいいね。約束する」


「おねがいします。じゃあ……へやにもどります。ロイド、いくよ」


 ハルトはそれで納得してくれたようだ。


 ロイドはまだ甘え足りない様子だったが、アリシアが下ろすと、ハルトに手を引かれて宮廷へ戻っていく。


 レジーナが、おれをじっと見つめる。


「ショウさん。絶対、帰ってこなきゃダメだよ? わたし、知ってるんだよ。どんなにひどい人だったとしても、いなくなられたら子供はすっごくつらいんだから。ショウさんたち、いい人なんだから……いなくなったら、あの子たち、わたしのときよりもっともっとつらい思いをしちゃうんだからね」


「わかった。絶対、帰ってくる」


「約束だからね」


 そう言い残して、レジーナはハルトとロイドを早歩きで追いかけていった。


 おれは小さくため息をつく。


「……絶対、帰ってくるよ……」


 自分に言い聞かせるように呟く。


 そんなおれの顔を、ソフィアが間近から覗き込む。黄色く綺麗な瞳におれの顔が映る。


「ショウさん、お顔が怖いですよ?」


「えっ!?」


「魔王打倒の闘志がみなぎっているようです」


「おれ、そんな顔してた? まいったな、ハルトたちを怖がらせちゃったかも……」


「なんちゃって」


 おれは久々に、がくり、と脱力した。


「ソフィア……」


「怖くはなかったですけれど、表情が固かったのは本当です」


「これから魔王と相対するんだからね。緊張もするさ」


「わたしもそうですけれど、少し前向きに考えてみませんか。楽しみなことだってあります。そうでしょう?」


 すると、ノエルがにっこりと笑った。


「アタシ、魔王がどんな魔力回路作ったのか気になってるの。他にも魔法道具マジックアイテムの作り方なんかも見つけられるかも」


「私はロイドと同じで、合成生物キメラが飼育できるか興味があるな。それに、魔王に恋した男がいたのなら、それを魔王がどう思っていたのか気になる。ぜひ聞いてみたい」


 アリシアも目を輝かせている。


「わたしも、凄い技術を間近で見るのは楽しみなのです。よく見せてもらって、わたしたちの技術にしてしまいましょう」


 悪戯っ子みたいに笑うソフィアに、おれも心から笑えてくる。


「そうだね。話してみてもダメで、戦うことになるかもしれないし、その備えもしてるけれど……逆に、技術者同士であっさりウマが合うかもしれない」


 どきどきと胸が高鳴ってくる。話してみたいことがいくらでも湧いてくる。


「魔王と友達になれるかも、か……。自分で言ったことだけど、本当に楽しみになってきたよ」





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