第147話 あの魔王に、俺たちの物作りを見せてやろうぜ

「ねえショウさん、バーンが刺されたって本当?」


 アリシアの屋敷から宮廷に戻ってみると、レジーナが来ていた。初めて会ったときからずいぶん背も伸びて、すっかり年頃の美少女といった佇まいだ。


「連絡があったのはもう何週間も前だけどね。治療も間に合ったし、命に別状はないみたいだよ」


「そっかぁ、よかったぁ……」


「ほらな。だから言っただろ。大丈夫だってよ」


 なぜかレジーナの隣にはケンドレッドもいる。


「あいつには聖女様がついてるわけだしな。それに俺が鍛えてやったんだ。【クラフト】がなくても、当面の仕事はこなせるだろうよ」


「それはそうとして……今日はなんでケンドレッドさんも一緒なんです?」


 するとケンドレッドは大きくため息をついた。


「いや、レジーナのやつ、どうやらまた家出してたらしいんだが、俺のところに押しかけて来やがってよ。あっち連れてけこっち連れてけって何週間もうるせえんでな、お前らに押し付けに来たんだよ」


「ケン爺、そういうこと言っちゃうんだー? ずぅっとご機嫌だったくせに」


「俺は物作りが上手くいったから機嫌が良かっただけだっつの。というか、ケン爺って呼ぶんじゃねえよ。まだジジイ呼ばわりされるほど歳は喰っちゃいねえ」


 ケンドレッドはそう言うが、孫がいてもおかしくない年齢のはずだ。実際のところ、レジーナを孫のように可愛がっているのだろう。


「でもケンドレッドさんが来てくれて良かった。急いで完成させたい物があるんです。ぜひ手伝って欲しい」


「そいつは、なにを作るか次第だぜ。つまらねえ物ならやらねえぞ?」


 乗り気な様子でにやりと笑ってくれる。


「じゃあ、図面を見に行きましょう」


「もう。大人って、すーぐ子供放って好きなことし始めるんだよねー」


 レジーナはつまらなそうに唇を尖らせる。


「そう言わないでよ。ハルトにはもう会ったかい? 君が来てると喜ぶからさ、また相手をしてやってよ」


 はいはい、というレジーナの生返事を聞きながら、おれたちは応接間を出る。


 おれの仕事部屋で、ケンドレッドに図面を見せる。


「ほう。面白いじゃねえか。おれも一台欲しいくらいだぜ」


「でしょう? でも、この図面は少し古い。これから、つまらなくしなきゃいけない」


 もう一枚の図面を広げてみせる。一枚目の図面に、諸々追加したものだ。


「……魔王がらみか?」


 ひと目見て、ケンドレッドは低い声で尋ねてきた。


「やっぱり、わかりますか」


「このタイミングで、こんなのを急いで完成させたいとくればな」


「ええ。今回の旅には、こいつが必要なんです」


「いいのか? こいつは立派な兵器だ。それに、そもそも俺たちゃ職人だぜ。戦いは他の連中に任せて武具を作ってやるのが本分だ。それをお前、子供だっているのにわざわざ……」


「子供がいるからこそ、行くんですよ。彼らには、より良い世界を作ってやらないと」


「……まあ、他はともかく、お前があれを放っておけるわきゃねえか。よく似た技術で、こうも被害を出されたんじゃな」


「手を貸してくれますか」


「いいぜ。あの魔王に、俺たちの物作りを見せてやろうぜ」


 おれは宮廷近くの工場に、ケンドレッドを案内する。


 そこではすでにソフィアやノエルが作業している。


 おれたちが作っているのは、乗り物だ。


 馬車よりもかなり大きい。小さな工房なら、まるごと中に収められてしまうサイズだ。


 というより、まさに『移動工房』がコンセプトだ。


 ケンドレッドが開発した、モリアス鋼を用いた乗り物――モリアス車は、馬車より速く強い。大型な物なら、それこそ建物を丸ごと運んでしまえそうなほどだったのだ。


 ならば、物作りに必要な道具や設備を丸ごと運んでみたくなるのが、職人ではなかろうか?


 旅の最中、いつでもどこでも物が作れるのは、おれたちにとっては浪漫だった。とはいえ、道楽に近いので趣味としてのんびり作っていた。


 それが今なぜ必要となるかと言えば、ノエルの故郷――エルフの里『シマリリス』へ行くことになったからだ。


 まず単純にシマリリスが遠方にあり、高速な移動手段が欲しかった。


 また、その位置は魔王が拠点としている小国グラモルに近く、戦闘に巻き込まれる可能性がある。乗り物には、強力な武装が施せる必要もあった。そのポテンシャルが、製作中の『移動工房』にはあった。


 ノエルの祖母からかつて魔王を封印した道具について聞き出せたら、すぐに製作に取りかかれるという利点もある。


 半ばまで製作されていたのに加え、ケンドレッドの協力も得られたことで、この武装工房車とでも言うべき代物は想定より早く完成した。


「……いい出来じゃねえか」


 ケンドレッドの呟きに、おれは黙って頷く。改めて武装工房車をじっくりと検分する。


 強力な装甲で覆い、さらに魔力回路で強力な防御魔法を施す。あらゆる攻撃魔法を増幅する魔導器を備え、魔力を発射する大砲も搭載している。


 移動工房の機能として、鍛冶道具や設備がひと揃い。小型ながら射出成形インジェクション装置も搭載している。


 荷室には食料や素材を積み込むのに充分な容量があり、居住スペースは小さいながら四、五人が眠れるようになっている。


 武装により重量が増えたが、その分、車体内部を新素材や魔物素材で軽量化した。当初の想定ほどではないにしても、充分な速度が出せるだろう。


「うん、おれたちの持てる技術は出し尽くした。これ以上の物は、今は作れないと思う」


 ソフィアは満足気に頷く。ノエルもアリシアもやりきった表情で目を細める。


 おれはそっと操縦席の扉の触れる。


「武装工房車シュフィール号。おれたちは、これで魔王に会いに行くんだ」





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