第116話 おれたち帰らないよ?

「ところでソフィアたちは、なんで追われてたんだい?」


 おれが尋ねると、ソフィアはバツが悪そうに目を逸らした。


「実は、脱走に失敗してしまいました……」


「私がミスをしなければ成功していたのですが……」


 聖女セシリーもうつむいてしまう。


「脱走って……なんでそんな無茶を。仮に上手くいったとして、そのあとはどうするつもりだったんだい」


「旅の巡礼者の方々に紛れてしまおうかと。どこかでショウさんたちの噂が聞けるでしょうから、そしたら合流するつもりでした」


「それなら……まあ、意外と上手くいったかもしれないけど……」


「捕まったままでは、ショウさんたちにもメイクリエにしても制限が大きすぎますので……。それに、脱走にはこれ以上ない好機でもあったのです」


 そこにリック隊長も口を挟む。


「結果としては、脱走してくれていて助かりました。本当は私とバーンで潜入してお助けするつもりでしたが、その手間が省けた上に、あなたがたと合流することもできた。お陰で、私が手助けしたことも気づかれていない」


「う~ん、偶然上手くいったって感じもするから、あんまり納得はできないなぁ。もうこんな無茶はしないで欲しいけど……」


「はい。心配しなくても、次はないです」


 ソフィアは意外と素直に頷いてくれる。


「もう離れ離れにはなりませんから。さらわれたとしても、一緒です」


「いや、そのつもりだけど……。いや、もう、まあいっか」


 おれは苦笑交じりに肩をすくめる。


 今、ここにソフィアがいてくれる。それだけで充分なのだ。


「ですが、ショウさんたちのほうは、どうしてあの場所に?」


「ああ、教皇と面会できそうな流れだったんだ。物作りの成功もあったし、交渉で君たちを返してもらえたり、あわよくば戦争も止めてもらえないかと思ってたんだけど……」


 おれはソフィアやサフラン王女に目を向ける。


「一番の目的は果たせたけど、大暴れしてきちゃったわけだし、面会はまた今度にせざるを得ないかな」


 すっかり忘れていたが、カーラ司祭を放置してきてしまった。


 ……まあ、今は置いておこう。


 おれたちはその後、目立たぬよう街道から外れた位置でキャンプを張った。


 脱出の際、リック隊長の【シャドウ】で行方は完全に隠蔽できたが、人海戦術で捜索されたら見つかってしまう。


 もっとも、人材不足の甚だしい現状のスートリアが、それだけの捜索隊を出せるとは思えない。十中八九は見つからないだろうが、念のため隠れてのキャンプとなったのだ。


 そこでおれはノエルに頼み、通信用の魔導器でベネディクト氏に連絡を取る。


「――そういうわけで、ソフィアやサフラン王女は無事に救出できたよ。今は聖女様や警備隊の隊長さんとも一緒だ。明日また連絡するから、そのとき、陛下と話ができるように準備しておいてくれないか」


「それはそれは、おめでとうございます。ご無事でなによりです。それでは私は急ぎ宮廷へ向かい、話を通しておきます」


「よろしく頼むよ」


「それでショウ様、おかえりはいつ頃に? また港町ユーリクへ船を送り込めばよろしいでしょうか?」


「え? おれたち帰らないよ?」


「はい?」


「ほら聖女様の要請で、この国に物作りを伝えるとか、義肢作りの手伝いをするとかあったでしょ? まだそれらの仕事が終わってないから」


「いや、しかし、戦時下の国にいつまでもおられるのは……」


「その戦争も終わらせたいんだ。スートリアや、メイクリエのためだけじゃない。周辺国の平和と安全のためにも。やり遂げなきゃいけないと思ってる」


「……よもやショウ様、ご自分の領地の仕事から逃れ、好き放題に物作りする口実にしておいでではありませんか?」


 ぎくり。半分は図星だ。


 横からソフィアが加勢に入ってくれる。


「そんなことはありませんよ、ベネディクトさん。これでもわたしたちは、とても頭を悩ませて決めたことなのです。ものすごく頭の痛い案件なのです。本当は、住み慣れた我が家に帰って、いつもの退屈なお仕事をしたいと心から願っているのです」


「ソフィア様? 心なしか、声が笑っていらっしゃるように聞こえますが?」


「気のせいです」


 おれとソフィアは、互いに悪戯っ子みたいな笑顔を向け合う。


「……しかし――」


「まあ、そう言わないでさ。おれたちの新婚旅行だと思って、大目に見てよ」


 通信魔導器の向こう側から、ため息が聞こえた。


「……かしこまりました。私がなにを言ったところで、どうしようもない場所におられる以上、従うほかにございません」


「すまない。ありがとう、ベネディクトさん」


 通信を切り、おれは再びソフィアと向かい合う。


「そういうわけで、始まる前に中断されちゃった新婚旅行の再開ってことでいいかな?」


「もちろん。デートの約束もありますから。とても楽しみにしていました」


 おれたちは早速、これからの活動についてみんなと話し合うのだった。





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