第75話 お前らの完勝だ

「あの盾は、魔導器でもあったのか!」


 国王が膝を打ち、感嘆の声を上げる。


「魔導器だと……!」


 ケンドレッドも目を剥いて呻く。


 そうだ。おれたちの盾には、魔力回路が施されている。


 これはノエルのアイディアだ。魔力石を装着することで強力な防御魔法が発動し、盾の防御力を飛躍的に増大させる。


 過去、武具に魔力回路を施す前例が無いわけではないが、コストがかかりすぎて、滅多に製造されることはないという。


 かつて、量産に挑戦した者もいたらしいが、性能の面に難があって結局実現しなかった。


 それらの問題は、おれたちの射出成形インジェクション技術で解消される。同じ形状を、同じ品質で量産できる技術なのだ。どんなに複雑な魔力回路であろうと例外ではない。


「そうか、その手がありやがったか。くそ、こっちじゃ同じことはできねえ……」


 ペトロア工房が考案した新工法で同じ物を作るには、魔力回路はあまりに複雑すぎる。不可能ではないが、作業員の数がどれだけ増大するか計り知れないだろう。


 試験官は相当に手こずっていたが、ようやく基本防御力試験を終える。


 基本防御力:152


「なんだよ、その数値は……」


 この瞬間、敗北の確定したケンドレッドは呆然と呟く。


「おお……我が国の平均水準を、これほど上回るとは……」


 国王のほうは、もはや目を輝かせて試験を注視するのみだ。


 メイクリエ製の盾の平均値は、100。S級魔物のドラゴンの牙や爪の直撃に数回も耐える性能値だが、おれたちの盾はその五割増しの能力を示したのだ。


 続いての属性防御力試験でも、遺憾なく性能を発揮する。


 炎熱耐性:98

 氷結耐性:99

 電撃耐性:100(破壊不能)

 腐食耐性:100(破壊不能)


 総合成績:549


「見事、見事だ! 期待以上だ!」


 国王は興奮気味に、おれたちのほうへ歩み寄ってくる。


 すぐ席を離れて王の前にかしずくアリシアに倣い、おれたちも同様にひざまずく。


「よくやったぞ。よくぞここまでの物を作り上げた。しかも大量生産が可能とは信じられん。セレスタン・ジロ・メイクリエの名において、最大の称賛を贈ろう」


「勿体なきお言葉です」


 セレスタン王は、ひどく上機嫌に首を横に振った。


「そのような堅苦しい態度はやめ、おもてを上げよ。余の感動に水を差すでない。立ち上がり、お前たちの顔をよく見せてくれ」


 そう言われて、おれは立ち上がる。続いてノエル、ソフィア。アリシアは最後まで躊躇っていたが、ゆっくりと立ち上がる。


「良い面構えだ。気に入ったぞ。お前たちの顔は、余の心に深く刻み込もう」


 それから、ひざまずいたまま顔を伏せているケンドレッドの肩を、セレスタン王は穏やかに叩く。


「ケンドレッド・ペトロア、お前もよくやった。性能で劣りはしても、新工法の発想そのものは素晴らしい」


 ケンドレッドは小さなため息とともに顔を上げた。


「悪いな、陛下。発想は俺じゃなくて、俺の弟子たちのもんだ。途中から手を出したが、品質を少し上げてやった程度でしかねえ」


「良い弟子を持ったな。これからも、その腕と指導で、我が国の発展のため力を尽くしてくれ」


「そうはいかねえ。約束があるんでな」


「余の要請より優先すべき約束なのか」


「それは、約束をさせたヒルストンとギルド長にでも聞いてくんな。俺は、先にケジメを付けさせてもらうぜ」


 ケンドレッドはようやく立ち上がり、おれたちの方へ向き直った。


「……お前らの完勝だ。お前たちのは、俺の想像も、実力も超えてやがった」


「いや見事なのはそちらもだ。実際、魔力石がない状態ならこちらが完敗している。それに、あなたに発破をかけられなかったら、ここまでの物は作れなかったかもしれない」


「謙遜すんじゃねえよ。お前らにはずっと舐められてると思っていたが、逆だったな。俺がお前たちを舐めていたんだ。悪かったな……」


「ケンドレッドさん……」


「それから、ソフィア・シュフィール」


 ケンドレッドはソフィアに神妙な顔を向ける。


 ソフィアは無表情で向き合う。


「俺はお前を追放させた人間のひとりだ。家族を失って、たったひとりになったお前を、俺は何度も妨害した。罵声を浴びせた。侮辱し、傷つけ、苦しめた」


「……はい」


「心から……謝罪する。すまなかった」


 ケンドレッドはゆっくりと深く、頭を下げた。





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