第70話 口より腕で証明してみろよ?
「俺がてめえに協力なんぞするわけねえだろ」
ケンドレッドは、おれの協力要請を話も聞かずに断った。
「だが、あなたもこのままでは立場がない。あのギルド幹部の中で、あなただけギルド長に目を付けられているようだった。あなたのお弟子さんたちも新技術の開発をやっているのが、理由じゃないのか?」
「だったらどうだってんだよ」
「やつらにとって、この勝負はどうでもいいんだ。潰し合わせて、残ったほうはまた別の手段で潰す……。彼らは新技術の開発をしてる工房を、全部排除するつもりだ」
「……ふん、有り得る話だな。大方、お前らの工房の火事も、ヒルストンあたりが仕組んだんだろうよ」
「それがわかるなら話は早い。物作りを続けるためにも、降りかかる火の粉は払わなきゃならない。そうは思いませんか」
「仮に協力するとして、俺になにをさせてえんだ?」
「あなたは職人ギルドの幹部として、ギルド長やヒルストンの不正をたくさん見てきたはずだ。こちらの調査資料を裏付ける証人になって欲しい」
「なるほど。刺される前に刺すわけか。さすがのお前も、相当キレてるみてえだな」
思わずおれは自分の手のひらを見つめる。怒りで震えている。
「ああ……武器を持ってこなくて本当に良かった。下手したら刀傷沙汰になって、なにもかもダメにしていたかもしれない。あんなに、褒めるところの見つからない相手は初めてだ」
湧き上がってくる怒りを深呼吸で吐き出して、努めて冷静にケンドレッドの目を見る。
「放火犯は自供したが、今のままじゃ揉み消されかねない。だが、あなたがいれば話は変わってくるはずだ。あなたも不正に関わってきたのだろうが、証言してくれたなら情状酌量の余地も生まれる。このまま潰されるよりは、ずっといい結果になる」
「ああ……そうだろうな」
しかしケンドレッドは嘆息して首を横に振った。
「だがな、断るぜ」
「なぜだ!?」
苛立ちから、強い口調で言ってしまう。
「職人なら口より腕だと言ったのはお前だぜ、ショウ」
言ってから、真剣な目でこちらに向き直る。嘲りや、見下しの視線ではない。
「どうせなら俺は、物を作って切り抜けてえ」
「……!」
その言葉に、おれはケンドレッドの職人としてのプライドを見た。
「俺はな、なにも利権だけでやつらとつるんでるわけじゃねえんだぜ。新しい物ってのはよ、すべてが良い物とは限らねえ。むしろほとんどがガラクタだ。古臭い物に潰されるってんならよ、そりゃあ後々に残すだけの価値がなかったってことじゃねえか?」
「それは、そうだとは思う。けど、意図的に潰しに来るのは間違ってる」
「潰されねえような物を作りゃあいいんだよ。やつらが喜んで新しい利権に乗り換えてくるような凄え物をよ。つっても、お前らにゃ無理か? ん?」
「いや。おれたちの新技術は、それくらい凄い」
「へっ。なら口より腕で証明してみろよ?」
おれは言い淀んでしまう。その隙に、ケンドレッドはさらに提案する。
「てめえらが勝ったら、証人をやるって話に乗ってやる。俺の追放はともかく、工房が潰されるのは弟子どもが困るからな」
「……わかった。証明してやる」
「だがな! こっちが勝ったら容赦しねえぞ! てめえらは前から気に入らねえんだ。叩き潰してこの国から追い出してやるから、覚悟してやがれ!」
「そうはいかない。勝つのはおれたちだ」
「けっ! そのツラだよ。この俺に勝って当然みたいなツラが気に入らねえってんだよ! いつもいつも舐めやがってよぉ!」
「舐めたことなんか一度もない。だからこそ、その態度が気に入らないんだ! だいたい、言い分には一理あるが、あなたがつまらない理由で新しい物を壊す連中の仲間なのは変わらない! 自分たちの意にそぐわない者を排除してきたのは変わらない! おれの大事な人を泣かせた罪は、絶対に償ってもらう!」
ついに怒りが溢れ、声を荒らげてしまう。
ケンドレッドは不敵に笑って、ふんっ、と鼻を鳴らす。
「だったらよぉ、てめえの最高を作ってこい。スパイごっこより、そっちのほうがよっぽど面白いぜ」
おれは拳を握りしめる。確かに、な。
今、怒りに任せて手持ちの証拠だけで、ヒルストンを糾弾する手段もあるにはある。
だが面白くはない。上手く排除できても、どうせべつの貴族がヒルストンの席に座り、同じことを繰り返すだけだ。
だったら最高の物を作り上げ、その上でヒルストンも徹底的に叩き潰すべきだ。
そうすれば、おれたちにちょっかいをかけたら損をすると、他の悪徳貴族にも見せつけることができる。さらに最高の品物が作れるとなれば、すり寄ってきたほうが得策だと思い知るだろう。
なにより、敵対者ながら「物を作って切り抜ける」というケンドレッドの言葉が気に入った。
「望むところだ。おれたちの最高を見せてやる」
今は、ただ作るのみ。
最高を作ることで最大の効果が得られるのなら、これ以上のことはない。
怒りをぶちまけ、ヒルストンを叩き潰すのは、あとのお楽しみだ。
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