第21話 おとぎ話の、魔法使いさんみたいになれたらなーって

 ノエルは薄暗い倉庫の中、壊れた装置を前に座り込んでいた。


 おれとソフィアが戻ってきたことにも気づいていない。


「……今度こそダメなのかな」


 かなり消沈している声だ。


 まるで、先天的超常技能プリビアス・スキルを奪われた直後のおれのように。


「今回も帰って来ないのかなぁ……。良さそうなふたりだったのに」


 ソフィアが先に動いた。かつておれにしてくれたように、そっと隣に座る。


 ほんの少し遅れて、おれもノエルを挟むような位置で座る。


「ノエル、戻って来たよ」


「あ、えっ!? ふたりとも? 戻ってきてくれてたの」


「はい。ノエルさん、ただいまです」


「どうしておれたちが戻ってこないと思ったんだい?」


「それは……よくあるのよ。アタシが仕事してると途中で妨害が入って、そしたら組んでた人たちもいなくなって、アタシひとりになっちゃうこと」


「大丈夫ですよ。わたしたちは、どこにも行きません」


「ありがとう……」


「ノエル、おれたちは手を引けと言われた。謝礼金と引き換えに、だ。この町の鍛冶屋や、君が以前に組んでいた人たちも、同じように言われたんだと思う」


「そっか……。やっぱり、そうなんだ……」


「君はあれが誰か、心当たりがあるんだろう? 良かったら、話してくれないか?」


「憂鬱な気持ちが、少しは晴れるかもしれません」


 ノエルはおれとソフィアを交互に見てから、小さく「うん」と頷いた。


「アタシね、ロハンドール帝国魔法学院出身なの」


「あのエリート魔法学院の? それなら納得の腕前だけど、でもあそこは……」


「うん、帝国軍人として魔法使いを養成してる学院」


「ということは、君は脱走兵なのか? それで追われてる?」


「あははっ、違うわ。あの学院、任官拒否は認められてるから。厳しい学院だったけど、アタシの夢のためには、あそこが一番だったの」


「ノエルさんの夢は、どんな夢なのですか?」


 ソフィアに問われて、ノエルは恥ずかしそうに上目遣いになる。


「……笑わない?」


「はい。人の夢を笑ったりはしません」


「んーと、ね。おとぎ話の、魔法使いさんみたいになれたらなーって……」


「おとぎ話の?」


「ほら、あのさ、報われない女の子に魔法をかけて舞踏会に連れてってあげたり、異種族同士の恋を手伝ってあげたりとか、そういう、困ってる人を助ける魔法使い」


「それはとても素敵な夢です」


 ソフィアの優しい声に、ノエルは安心して口元が緩む。


「うん、ありがと! 素敵でしょ? だから奨学金とか、授業内容とか、どんなに厳しくても卒業まで頑張ったわ。ただ……頑張りすぎちゃったみたい」


 ノエルは憂鬱なため息をつく。


「同級生に、学院長の孫がいてね……そいつに目をつけられちゃって」


「まさか、いじめに遭ったのか?」


「それならまだ対処は楽だったわ。あいつ、アタシに結婚を迫ってきてるの」


「結婚? 現在進行系で?」


「そう、現在進行系。何度も断ってるのに」


「まさか、妨害はそいつが?」


「そうみたい。アタシの行く先々に人探しの手配書なんか貼ってみたり、今回みたいに妨害したり、仕事仲間を解散させたり……。それでアタシが失敗したら『こんなところじゃ君の才能は活かせない』とか『もっと相応しい場所がある。僕の隣さ』とか言ってくれちゃって……どの口が言うってのよ、もう」


 ノエルは片膝を抱えて、顎を乗せる。


「アタシだけが嫌な思いをするならいいわ。でも……あんな風に妨害されたら、アタシに助けを求めてきた人が、困るじゃない……。助けてあげたり、喜ばせてあげたいのに……それを邪魔されるなんて、悔しすぎるわ……」


 気持ちが痛いほど伝わってくる。


 おれは強く拳を握りしめた。


 個人の恋路としてはやりすぎている。


「たぶん、学院や軍の意図もあるんだろう。いくらエリート学院でも、卒業までにA級以上になってる魔法使いなんて滅多にいないそうじゃないか。学院長の孫が君に惚れてるのをいいことに、結婚させて君を帝国軍の手元に置こうとしてるんだ」


 ソフィアも、まだ見ぬ相手への憤りが表情に出てきている。


 それを深呼吸で吐き出すと、綺麗な黄色い瞳でノエルを見据える。


「ではやるべきことは簡単です。期日までに装置を完成させましょう」


 ノエルは目を丸くする。


「できるの?」


「やってみせます。どんな妨害をしても、ノエルさんを自由にはできないと見せつけましょう。そして、最後に言ってあげてください」


「なんて?」


「ざまあみろ、です」


 ふふっ、とノエルは笑った。


「なにそれ。言えたら凄くスッキリしそう。でも、あなたたちも嫌がらせされるかもしれないのよ。なのに、どうしてそこまでしてくれるの?」


「わたしたちも、奪われる悔しさならよく知っていますから」


 おれもノエルに微笑みかける。


「そういうこと。さあ、この妨害の中、どうやって作るか一緒に考えよう」





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