第4話 番外編①-1 騙された者たち

「シオンが……死んだ」


 パーティリーダーのジェイクの言葉を、女魔法使いラウラは信じられなかった。


 シオンはS級冒険者パーティ『フライヤーズ』の一員として、数々の冒険を共に乗り越え、いつだってパーティを支え、何度も窮地を救ってくれた。その彼が、こんなところで死ぬわけがない。


「嘘よ、そんなの……」


「そうだ。だってあいつは……あいつはシオンなんだぜ」


 盾役の戦士エルウッドも、唇を震わせ、首を横に振る。


 そんなふたりに対し、ジェイクは表情を固くして俯いた。


「俺だって、嘘だったらいいと思ってるさ……。でもこれが現実なんだよ。あいつは俺の目の前で死んだ。殺されたんだ。あいつの相談に乗ってたら、急に魔物が――」


「じゃああんたは見殺しにしたっていうの!? 助けなかったの!? なんであたしたちを呼ばなかったの!?」


「呼べなかったんだ。敵は魔法で俺たちの声を、そっちまで届かないようにしやがったんだ」


遮音魔法サイレントフィールドを使われたっていうの? そこまで高度な魔物がこんなところに?」


「いたんだろ……。偶然、通りがかったのか、この山の主だったのかは知らねえよ。けど急に襲われて、シオンは俺を庇って……」


 ジェイクはつらそうに目を背ける。


 エルウッドが呟くように問う。


「その魔物は、どうなったんだ?」


「シオンが殺ったよ。あいつ、もう重傷で……助からないって覚悟したんだろうな。魔物を道連れして、崖を……飛び降りた」


「そんな……」


 ラウラは力なくその場を離れる。シオンが飛び降りたという崖のほうへ、ふらふらと歩いていく。


 そこには確かに誰かの――きっとシオンの血の痕があった。彼の持ち物が散乱している。


 下を覗き込めば、シオンの装備がいくつか、崖の中腹の岩に引っかかったままになっている。


 シオンが落ちたというのは、きっと間違いない。


 そして、崖の高さは絶望的。崖下には滝のような激流の川があったはずだが、その姿が雲に隠れるほどの標高であり、激流の音もここには届かない。


 ここから落ちたというのなら、シオンは……確実に……。


 ラウラは膝から崩れ落ちる。


「う、うぅうっ、シオン……。シオン……う、うあっ、うあああん」


「シオン、お前、本当に死んじまったのかよぉ……!」


 追ってきたエルウッドも、シオンの死を確信して、歯を食いしばりながら涙を流した。


 ふたりは、その背後でジェイクがどんな顔をしていたのか知らない。

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