第372話 23階 下手な寸劇


23階にやって来た。風船の色は黄色である。


今回のお題は長かった。


「王子役が姫役をモンスターから庇い、腕に傷を負うも、駆けつけた騎士によりモンスターは倒された。庇われた姫役は涙を流しながら王子役の傷を癒す……という寸劇をしなければならないそうだ」


因みに、各自セリフが用意されていた。


「うにゃ」


じゃんけんだ。


だって、王子と姫と騎士で3人だろ?俺達4人……1体と3匹居る。つまりひとりやらなくても良いのだ!


というわけで、じゃんけんした。もちろんグレイ以外は前足の動きで表している。


俺は前足をきっちり揃えてグー、ヤクシは前足をクロスさせてチョキ、マリモちゃんは前足を広げてパー、グレイはチョキである。


相子を繰り返して、なかなか決まらないのでちょっとズルいが視覚系ユニークを利用して何とか勝った!


つまり俺は総監督!


因みに、マリモちゃんとヤクシは出てくるモンスターによっては怪我しないので王子役はグレイになり、ヤクシが姫役、マリモちゃんが騎士役に決まった。


しかし、セリフがあったとしてキューとか念話とかで大丈夫なのだろうか?


中に入ると、段ボールで出来た木等が設置されていて、モンスターはキングゴブリンだった。


ねぇ、キングゴブリン剣持ってるけど、グレイの腕スパッととんだりしない?いや、まぁ、グレイは腕取れてもくっ付ければくっつくんだけどね?ほら、スライム混ぜてるし。自動修復とかあった気がするし。


カチンコがカチンと劇スタートを合図すると、ヤクシに襲いかかったキングゴブリンから庇うようにグレイが間に入る。


「危ない!」


「キュー!」訳:きゃぁぁっ!



グレイが剣の振り下ろしを見ながらちょびっと剣先に腕をかすらせた。


「くっ!」


「キュー!」訳:王子様!


そこにマリモちゃんが現れてキングゴブリンに体当たりして距離をあける。


『王子ー姫ーご無事ですかー?』


「大丈夫だ!我が騎士よ!キングゴブリンを排除せよ!」


『しょうちー!』


マリモちゃんがキングゴブリンを瞬殺したのを見届けてから、ヤクシがグレイにヒールをかける……あれ、もう傷塞がってない?


「キュキュー」訳:ヒール、良かった治ったわ。


「ありがとう姫、私は大丈夫です」


王子と姫が手を取り合って見つめあい、劇終了。


そして流れるドラムロール、ドゥルルルルルジャシャーン!と劇のセットが消えて、採点ボードが現れた。


「10点中6点……何故だ?」


「キュー」


センスがあわないから仕方ない。とヤクシは興味ないようだ。


『ちゃんとーやったやろがいー!』


マリモちゃんは怒っているが、まぁ、端から見ていた俺からすると、ぶっちゃけ下手だった。むしろ6点は採点が甘い可能性すらある。


納得いってなさげな3人をスルーして、宝箱の確認だ。


これ、採点結果で宝箱の中身が変わる仕様なんだろうか?中身が『汗の匂いを抑えるスプレー(石鹸の香り)』10本だった。


探索者はダンジョンに入る時は無臭が好ましいのに石鹸の香りとか、探索者は休みの日にしか使えないやつじゃないか。


運動して汗をかいて匂うだろうダンジョンでこそ使いたいだろうに……採点は甘いけど地味に嫌なことしてくるダンジョンだ。

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