第337話 9階セーフティエリア


ミロク製のスポンジはとても良かった。野田君が気配を察知して、安田君が盾を構えて先に進むと、盾を狙って飛んでくる針がスポスポとスポンジに刺さるのだ。


そして、針が止まった隙に安田君が走ってハリネズミにとどめを刺す。


スポンジに刺さった針を抜けば、何故かスポンジは元通り。針のあとすらないのだ。


「謎のミロク技術」


「どちらかと言うとダンジョン技術じゃないかな?」


「いや、だってこんなん見たことねぇアイテムじゃん」


「それは……誰もレシピ見つけて無いだけじゃないかな?あのこポイポイ色んな物錬金釜に入れてるよ?」


「普通は入れないでござるし、入れても失敗するでござる」


成る程、幸運が仕事してるのか。ミロクあるあるだね。


因みに針がドロップ品みたいなもので、消えずに残った針は鉄製だったので、売れる。


ハリネズミに気を付けながら進み、7階。この階には岩のゴーレムや鉄ゴーレムが出てくる。


面倒なのでスルー、動きは遅いので簡単に抜けられるのだ。今日は泊まり予定なので9階にあるセーフティエリアに入っておきたいし、時間のかかるゴーレムはスルーだ。


稼ぐなら9階か10階の中ボスを倒した方が良い。


そんな感じでなるべく消耗せずに9階のセーフティエリアに到着。何人か他の探索者さんが居たけど、軽く礼だけして離れた場所で設営開始。


手に入れたばかりの簡易キッチンを展開して、ミロク製の結界石を設置、テントと防水マットを出したら完了だ。


因みに簡易キッチンとかは展開すれば使用者登録されるので、奪われたりする心配は無い。


使用者が亡くなれば消えてしまうという情報もあるので、ダンジョンって一昔前は殺伐としてたんだろうなって思ったよ。


因みに僕は料理の材料を沢山持たされているので、本格的なキッチンがあれば普通の料理が出せる。


幸運のツルハシのおかげで結構な量が採れてるので、のんびりで良いのだ。


冷凍ブイヨンとか牛や豚の塊肉、各種乾麺や冷凍パイシートまで渡されるままに入れてあったので、ビーフシチューのパイ包み焼きと野菜たっぷりペペロンチーノにしよう。


簡易キッチンのくせにオーブンは勿論、耐熱皿まで入ってるんだよねぇ。コンロは4口もあるし、全然簡易じゃない。


因みに魔石を入れて動くんだけど、ゴブリン魔石1個で3時間くらい稼働するんだって。ちゃんと取説付きだった。


「なんかめっちゃ凝った料理しようとしてねぇか?」


「ブロック肉出てきたでござる」


「ルーの箱を見るにビーフシチューか、ダンジョンで作るものでは無いな」



「え、食べないの?」


「「「食べる!」」」


だよねぇ。


なんかじっと見られてるけど、見られるのはミロクで慣れてるから大丈夫。大丈夫なんだけど……他の探索者さんたちもジリジリ近づいて来てない?


「えっと?」


「に、2000円出すのでお恵みを!」


「カロリーバーはもう嫌だ!」


「ビーフシチュー……じゅるり」


詳しく聞いてみると、2日くらいこもりっぱなしのパーティーだった。9階に出てくるレアモンスターの宝石ミニゴーレムのドロップが出ないらしい。


期限は長いが依頼品なので早めに見つけたいらしく、収納鞄にカロリーバー等を詰め込んで来たんだとか。


そんな人達がビーフシチューの匂いで釣れたようだ。我慢できなかったらしい。


「えーと、さすがにパイシートが足りないのでただのビーフシチューになりますけど」


大鍋で作ってるからビーフシチューは足りるよ?


「「「ありがたやぁぁっ!」」」


なんか拝まれた。


「というか、皆はやること無いなら9階回ってきなよ」


なんか雑談してた三井君たちに言うと、カロリーバーの人達も行くらしい。匂いが良すぎて気を紛らわしたいらしい。


僕は鍋を見とかなきゃなのでお留守番。野菜を切ってレンチンもしなきゃだ。


「合金ゴーレムを採掘できるツルハシが謎過ぎでござるー!」


「ゴーレムのパンチを受けて全く衝撃が来ないスポンジも謎なのだが!?」


「合金ゴーレムバインド系だめじゃねぇか!」


なんか皆叫んでるなぁ。僕は料理しながら高みの見物ってやつだ。


ミロクの作成物の出鱈目さに驚くが良いのだ。


「よし、あとは落ち着くのを待つとして容器に移してパイシートを被せておこうかな」


帰って来た頃に焼けるように、準備だけはしておいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る